なぜParrotはANAFI UKRを生み出せたのか?
AR.DroneからPix4D、ANAFI USAへ続く技術の系譜
スマートフォンで飛ばすAR.Droneと、偵察・監視を担うANAFI UKR。一見すると遠い製品ですが、Parrotの歩みをたどると、カメラで自分の動きを測り、小さな機体で情報を処理するという共通の発想が見えてきます。
2025年6月に正式発表されたANAFI UKRについて、Parrotは紛争地からの直接のフィードバックをもとに開発したと説明しています。その設計を支えた技術は、どこで育ったのでしょうか。
このブログでは、AR.Drone、senseFly・Pix4Dへの投資、ANAFI USA、ANAFI Aiへと続く開発をたどります。政府・セキュリティと、通信・AI・データという2つの系譜から、ANAFI UKRの設計と日本で検討する際のポイントを読み解きます。
- ParrotはBluetooth車載機器などで成長した無線・組込み技術の会社で、2010年のAR.Droneでドローン市場に参入しました
- 2012年にはスイスのsenseFlyとPix4Dに投資し、「飛ばす」だけでなく「データにする」事業を早くから組み立てていました
- ANAFI UKRは、ANAFI USA(政府・セキュリティ)とANAFI Ai(通信・AI・データ)という2つの系譜が合流した機体だと私たちは見ています
Parrotは「航空機メーカー」として生まれた会社ではない
Parrotは1994年、Henri Seydoux(アンリ・セドゥ)氏がパリで創業した会社です。最初に手がけたのは航空機ではなく、音声認識を使った小さな電子手帳で、主に目の不自由な方に使われた製品だったとセドゥ氏は振り返っています。
2000年代に入ると、携帯電話とBluetoothでつながる車載ハンズフリーキットで事業を大きくします。2006年にユーロネクスト・パリへ上場した際の目論見書では、自社の「CK3000」を「市場に出た最初のBluetoothハンズフリーカーキット」と説明しています。2011年には、モバイルテレビ向け半導体のDiBcom、液体レンズのVarioptic(バリオプティック)も買収しました。
無線通信、音声・信号処理、組込みコンピュータ、そして画像。ドローンに必要な要素の多くを、Parrotは「空を飛ぶ前」から持っていたことになります。
ドローンへの入口は、意外にもゲームでした。2010年1月、セドゥ氏は、4年前から無線を使ったゲームを開発してきたこと、最初の試作はBluetoothで動くレースカーだったことを明かし、夢のある遊びにするには「飛ばなければならなかった」と語っています。Parrotにとってドローンは、航空機の延長ではなく、スマートフォンとつながる「空飛ぶ周辺機器」として始まりました。
出典・参考資料
AR.Drone(2010年)――スマートフォンで飛ばす小型ドローンの原型
AR.Droneは2010年1月、米ラスベガスの家電見本市CESで披露され、同年夏から秋にかけて欧米で発売されました。iPhoneやiPod touchからWi-Fiで操縦し、機体の前方カメラの映像をそのまま画面で見られます。拡張現実(AR)を使ったゲームが用意され、開発者向けのSDK(ソフトウェア開発キット)も公開されました。
技術面で注目したいのは、機体の安定のさせ方です。AR.Droneが積んでいたのは、次のような部品でした。
- 加速度と角速度を測るMEMS慣性センサー(IMU)
- 高度を測る超音波センサー
- 地面を撮る下向きカメラ
- Linuxで動く組込みコンピュータ
下向きカメラは、対地速度を測り、自動ホバリングに使われます。GPSではなく、カメラの映像で自分の動きを測って空中にとどまる仕組みです。2012年のAR.Drone 2.0ではHDカメラと磁気・気圧センサーが加わり、シリーズの累計販売は2015年時点で約90万台とParrotは公表しています。
いまでは当たり前になった「スマートフォン」「カメラ」「Wi-Fi」「IMU」「コンピュータビジョン」「自律安定飛行」を、Parrotは2010年の時点で一つの小型機にまとめていました。カメラ映像から自分の位置や速度を推定する考え方は、のちのANAFI UKRの光学航法にも通じると私たちは考えています。
出典・参考資料
Bebop(2014年)――小さな機体に計算能力を詰め込む

2014年5月に発表され、同年12月に発売されたBebop Droneは、約400gの機体に1,400万画素・画角180°の魚眼カメラとフルHD動画を載せました。特徴は、カメラを機械式のジンバルで支えず、3軸の揺れをデジタル処理で補正した点です。デュアルコアCPUとクアッドコアGPUを積み、GPS・GLONASS・Galileoの衛星測位にも対応しました。送信機「Skycontroller」を使うと、Wi-Fiの通信距離は最大2kmまで延びます。2015年のBebop 2では、重量約500g、飛行時間約25分になりました。
部品を増やす代わりに計算で補う。この発想は、2018年のANAFIの「機械式2軸+電子式3軸」のハイブリッド安定化、そしてANAFI UKRの3軸ハイブリッドジンバルにつながっていると私たちは見ています。
この頃がParrotのドローン事業の最盛期でした。2015年のドローン事業の売上は1億8,340万ユーロで、グループ売上の半分以上を占めています。ただし、この勢いは長くは続きませんでした。
senseFlyとPix4D――「飛ばす」から「データにする」へ
2012年、スイスのEPFL発の2社に同時に投資
AR.Droneが売れていた2012年7月、Parrotはスイスの2社への投資を発表します。どちらもEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)から生まれたスタートアップでした。
- senseFly:EPFLの知能システム研究室から2009年に生まれた、測量・マッピング用の固定翼ドローンのメーカーです。Parrotは500万スイスフランで株式の過半数(56.6%)を取得しました。senseFlyは同年10月、重量約0.7kgの全翼機「eBee」を発表しています。
- Pix4D:EPFLのコンピュータビジョン研究室から2011年に生まれた、写真測量ソフトの会社です。Parrotは240万スイスフランで少数株主として出資し、2014年1月の買い増しで過半数を取得しました。2025年6月末時点の持分は約95%です。
2社は組み合わせて使われていました。senseFlyは自社の処理ソフトにPix4Dの技術を採用し、2013年にはeBeeで撮った2,000枚以上の写真からPix4Dのソフトで3億点規模の3Dモデルを作り、マッターホルン全体を再現するプロジェクトも行われています。
写真から地図と3Dモデルをつくる「写真測量」
Pix4Dが手がけるのは、写真測量(フォトグラメトリ)と呼ばれる技術です。重なりを持たせて撮った大量の写真から、同じ地点が写った箇所を照合し、地形や構造物の形を計算で復元します。
重なりのある空撮写真 → 写真測量処理 → オルソ画像・点群・3Dモデル・DSM
オルソ画像(傾きや歪みを補正した地図状の画像)、点群、3Dモデル、数値表層モデル(DSM)が得られると、土量の計算、出来形の確認、施設の状態記録など、写真を眺めるだけではできなかった業務が可能になります。飛ばして撮っただけでは、まだ業務の成果にはなりません。撮った画像を処理し、使える情報に変える工程が必要です。
Parrotが描いた「機体+センサー+ソフト+データ」
Parrotはその後も業務用分野への投資を続けました。
| 役割 | 企業 | Parrotとの関係 |
|---|---|---|
| 機体(業務用マッピング機) | senseFly(スイス) | 2012年に過半数を取得し、のちに100%子会社化。2021年10月に米AgEagleへ売却 |
| ソフトウェア(写真測量) | Pix4D(スイス) | 2012年に出資、2014年に過半数を取得。2025年6月末時点で約95%を保有 |
| センサー(マルチスペクトル) | MicaSense(米国) | 2014年に出資し、のちに過半数を取得。2021年1月にAgEagleへ売却 |
| 農業データの解析 | Airinov(フランス) | 2014年に出資、2015年に過半数を取得。2019年に活動を終了 |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
2016年3月、Parrotは、自社の戦略を「市場ごとの垂直統合」と説明しています。2018年の決算発表では「Parrotはいまやエンドツーエンドのドローングループである」と述べました。機体、センサー、処理ソフト、解析までを一つのグループでそろえる構想です。
なぜ機体メーカーが写真測量ソフトを持ったのか
私たちは、Parrotによる写真測量ソフトへの投資を、次の3つの観点から捉えています。
- 業務用ドローンの価値は、機体そのものより、最終的な成果物(地図、図面、点検記録)で決まる
- 写真測量はコンピュータビジョンそのもので、カメラ映像から位置や形を推定するParrotの技術と根が同じ
- ソフトは他社の機体を使う利用者にも販売でき、機体の価格競争とは別の収益源になる
結果として、この判断はParrotを支える柱になりました。senseFlyとMicaSenseは2021年に売却されましたが、Pix4Dはグループに残っています。2025年度のParrotの売上7,980万ユーロのうち、約4割(3,180万ユーロ)がPix4Dを中心とする写真測量事業です。2026年からはこの事業を「Critical Infrastructure Solutions(重要インフラ向けソリューション)」と呼び替え、マッピング、3Dモデリング、点検、地理空間分析、デジタルツインへの展開を打ち出しています。
PIX4Dmapper、PIX4Dmatic、PIX4Dcloudなどを業務で使っている方にとって、PIX4DがフランスのドローンメーカーParrotのグループ企業だというのは意外かもしれません。Pix4Dはスイスに本社を置き、東京にも拠点があります。SkyLink JapanでもPIX4D製品を取り扱っています。
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ANAFI(2018年)――320gに凝縮した「すぐ取り出せる」カメラドローン

2018年6月に発表された初代ANAFIは、折りたたみ式で重さ320gの機体です。主な特徴は次のとおりです。
- 2,100万画素・4K HDRのカメラ。画質を落とさないズームはフルHDで最大2.8倍
- 機械式2軸と電子式3軸を組み合わせたハイブリッド安定化
- カメラを真下から真上まで(−90°〜+90°)向けられるジンバル
- USB-Cで充電できるバッテリー、飛行時間25分、通信距離4km(Skycontroller 3使用時)
- 1m離れた位置で65.5dB(A)という静かさ。Parrotは「同クラスで最も静かな飛行」とうたっていました
カメラが真上を向く設計は当時としては珍しく、橋の床版の裏側など、下から見上げる撮影に使えます。当時のANAFIは、愛好家からプロまでを対象にした「どこへでも持ち歩ける4K HDRの空飛ぶカメラ」として売り出されました。同年9月には業務向けのANAFI Work、2019年4月にはFLIR社の小型サーマルモジュール(160×120画素)を積んだANAFI Thermalが続きます。
小さい、軽い、静か、すぐ飛ばせる。発表時の狙いは一般向け・プロ向けの空撮でしたが、これらの特徴は、のちに警察・消防・軍の現場で求められる条件と重なっていきました。
コンシューマー市場からの転換――得意分野への集中
2010年代半ば、一般消費者向けのドローン市場では、DJIをはじめとする中国メーカーが急速に存在感を高めました。Parrotのドローン事業の売上は、2015年をピークに減少に転じます。
2017年1月、Parrotは2016年第4四半期の売上が目標に届かなかったことを公表し、一般向けドローンの利益率が不十分だとして、ドローン部門840人のうち約290人の削減を発表しました。2017年から2018年にかけては、創業期からの流れをくむ車載機器事業をフランスの自動車部品大手フォルシア(Faurecia)に段階的に売却しています。
2019年には業務用ドローンを軸に事業を再編したと説明し、同年7月にはANAFIとその派生機以外の開発・生産を止めたことが報じられました。2021年には「クアッドコプター型のマイクロドローンと、画像計測・解析ソフトに資源を集中する」として、MicaSenseとsenseFlyを売却しています。
価格と量で勝負する一般向け市場から、信頼性とセキュリティが問われる業務用・政府向けの小型機と、Pix4Dのソフトへ。Parrotの事業は、得意分野を絞り込む方向に組み替えられていきました。2025年度の売上7,980万ユーロのうち、業務用マイクロドローンは4,790万ユーロ。2026年上期の売上は5,730万ユーロ(前年同期比71%増)で、マイクロドローン事業は前年同期の2倍以上に伸びています。
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米陸軍SRRとBlue sUAS――政府・防衛市場への本格参入
業務用への転換と並行して、Parrotは米国政府の小型ドローン調達に関わり始めます。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2018年11月 | 米国防総省の国防イノベーションユニット(DIU)が、米陸軍の小隊用偵察ドローン「Short Range Reconnaissance(SRR)」の提案を募集 |
| 2019年4月 | Parrot、Skydioなど6社が試作機の開発企業に選ばれる(6社で計1,100万ドル。Parrotの発表は5月) |
| 2019年12月 | 2020年度国防授権法(NDAA)第848条が成立。国防総省による中国製ドローンと主要部品の調達・運用を原則として禁止 |
| 2020年4月 | ParrotがSRR試作機を米国内で製造すると発表 |
| 2020年6月 | ANAFI USAを発表 |
| 2020年8月 | DIUが、政府機関向けに審査を済ませた小型ドローン「Blue sUAS」の最初の5機種を公表。ParrotのANAFI USAが含まれる |
| 2021年2月 | 米陸軍がSRRの第1段階にSkydio X2Dを選定 |
| 2026年8月 | 米陸軍が次世代の小隊用SRRの飛行評価を経て、Parrotを含む5社を製造能力の評価対象に選定(機種は非公表) |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
SRRの要件は、飛行時間30分程度、通信距離3km、重量3ポンド(約1.36kg)以下、2分以内に組み立てられ、背嚢に入ることでした。「小さく、軽く、すぐ出せる」は、ANAFIがもともと備えていた特徴です。Parrotは試作機を米国内で製造する体制を整え、2020年8月末の発表では「SRRの最終候補2社の一つ」と説明していました。
2021年の第1段階ではSkydioが選ばれましたが、ParrotはSRRの開発で得たものを製品に反映します。ANAFI USAについてParrotは「米陸軍向けに設計したSRRドローンと同じ、高水準のセキュリティ、耐久性、撮像能力を備える」と説明しています。
※Blue UASのリストは、2025年12月に米国防契約管理局(DCMA)へ管理が移りました。掲載状況は改訂のたびに変わるため、調達の際は最新のリストで確認が必要です。
出典・参考資料
ANAFI USA(2020年)――政府機関が使えるANAFIへ

2020年6月30日に発表されたANAFI USAは、初代ANAFIの折りたたみ構造を受け継ぎながら、政府・公共安全の用途に合わせて作り直した機体です。Parrotは米マサチューセッツ州で製造していると説明しています。
| 項目 | ANAFI(2018年) | ANAFI USA(2020年) |
|---|---|---|
| 重量 | 320g | 500g |
| 昼間用カメラ | 2,100万画素・4K HDR | 2,100万画素×2、最大32倍ズーム |
| 熱画像 | なし(派生機のANAFI Thermalは160×120画素) | FLIR Boson(320×256画素) |
| 耐環境 | — | IP53、−36〜+50℃ |
| 展開時間・飛行時間 | — ・25分 | 55秒以内に飛行準備・32分 |
| データ保護 | — | SDカードをAES-XTS(512ビット鍵)で暗号化、署名付きファームウェア、利用者の同意なくデータを共有しない設計 |
| 主な対象 | 一般・プロ向けの空撮 | 政府機関・公共安全・防衛 |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
同年8月には政府向けのANAFI USA GOVと軍向けのANAFI USA MILが登場し、MILにはAES-256で暗号化した無線リンクが加わりました。
フランス国防調達庁(DGA)も採用
2021年1月、フランス国防調達庁(DGA)は陸軍・海軍・航空宇宙軍向けのマイクロドローンとしてANAFI USAを選び、数百機規模の5年契約を結びました。DGAは2022年11月、累計450システム(1システムは地上局1台と機体2機)を受け取ったと発表し、2019〜2025年の軍事計画法のもとで計845システムを調達する予定としています。
ANAFIからANAFI USAへの変化は、機体の改良にとどまりません。ANAFI USAを境に、Parrotの主な顧客は一般消費者から政府機関・公共安全・防衛へと移っていきました。
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ANAFI Ai(2021年)――4G、AI、オープンなSDK、そしてPIX4D

ANAFI USAが「政府・セキュリティ」の系譜だとすれば、2021年6月30日に発表されたANAFI Aiは「通信・AI・データ」の系譜です。Parrotはこの機体を「4Gを、機体と操縦者をつなぐ主なデータリンクにした最初のドローン」と説明しました。
4Gを主回線にした意味
従来のドローンは、送信機と機体を直接結ぶ無線(多くはWi-Fi)で操縦します。電波が届く距離が、そのまま運用できる範囲でした。ANAFI AiはSIMカードを入れると、送信機がWi-Fiと4Gを自動で切り替えます。Parrotは、4Gの電波が届けば距離を問わず操縦できると説明しています。
携帯電話の電波が弱い場所や届かない場所では、この利点は生かせません。それでも、一つの無線リンクだけに頼らず、複数の通信経路を持たせるという考え方は、ANAFI UKRの複数の通信経路にも見ることができます。
撮影から3Dモデルまでを一続きに
ANAFI Aiは1/2インチ・4,800万画素のカメラを積み、写真測量用の飛行計画を自動で作れます。飛行中に撮った写真をPIX4Dcloudへ直接送り、着陸すると処理が始まります。Parrotは2021年12月の発表で、飛行の約2時間後には3Dモデルが使えると説明しました。
ANAFI Aiで撮影 →(飛行中に4Gで送信)→ PIX4Dcloudで処理 → オルソ画像・3Dモデル
2012年に始まったPix4Dへの投資が、約10年後に機体と一体のワークフローとして形になったわけです。
SDKの公開とセキュリティ
- Air SDK:利用者が作ったプログラムを機体の上で直接動かせる
- オープンソース:操縦アプリの中核「OpenFlight」を公開(Parrotは「業界初」と説明)
- 障害物検知:回転するジンバルに載せたステレオカメラで全方向を検知
- セキュリティ:FIPS140-2準拠・CC EAL5+認証のセキュアエレメント、署名付きファームウェア、暗号化した4G通信。利用者の同意なくデータを共有しない設計
- 脆弱性報奨金制度:2021年4月、欧州のYesWeHackと開始
機体重量は898g、飛行時間は32分、防塵防水はIP53です。
2022年以降、小型ドローンに求められる条件が変わった
2022年2月以降、ドローンを取り巻く環境は大きく変わりました。欧州航空安全機関(EASA)は、紛争地域の周辺を中心にGNSS(GPSなどの衛星測位)の妨害や偽装が深刻化・巧妙化しているとして、航空関係者向けの注意喚起を2026年7月まで改訂し続けています。
ウクライナでは、部隊単位で使う小型ドローンが情報収集・警戒監視・偵察(ISR)の手段として広く使われるようになりました。同時に、ドローンが前提にしてきた「衛星測位が使える」「操縦用の無線がつながる」という条件が、当たり前ではなくなっています。
| 環境の変化 | 何が起きるか | 機体側に求められる設計 |
|---|---|---|
| GNSSジャミング(妨害) | 衛星測位の信号を受信できず、位置が分からなくなる | カメラ映像など、衛星測位以外の手段で位置を推定する |
| GNSSスプーフィング(偽装) | 偽の信号により、誤った位置を正しいと思い込む | 偽装を検知し、別の手段で得た位置と照合する |
| 無線リンクへの妨害 | 操縦の指示や映像が届かなくなる | 周波数ホッピング、複数の通信経路、通信が途切れたときの自律動作 |
| 送れるデータ量の制約 | 映像をすべて地上に送って判断できない | 機体の上での画像処理・AI(エッジ処理) |
| 改良の速さ | 数をそろえ、短い周期で改良し続ける必要がある | 比較的低価格で、ソフト更新で機能を上げられる設計 |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
欧州ではリトアニアやフィンランドなどが小型偵察ドローンの調達を進め、NATO支援調達庁(NSPA)も共同調達の枠組みを動かしています。
小型ドローンには、通常の環境で安定して飛ぶことに加えて、衛星測位や特定の無線リンクが使えなくなっても任務を続けられることが求められるようになりました。これは防衛分野に限った話ではありません。電波が混み合う都市部や、大規模災害で通信が不安定になった現場にも通じる課題です。
出典・参考資料
ANAFI UKR――2024年に納入が始まり、2025年に正式発表

発表までの経緯
2024年9月、リトアニア国防省は、250万ユーロの契約で「Parrot Anafi UKR」を受け取ったと発表し、この機体を「ウクライナ軍に有効な小型多用途機を提供する国際的な取り組みの成果として開発された」と説明しました。2025年2月には、米DIUがBlue UASリストに向けた検証とサイバーセキュリティ審査の対象にANAFI UKRを選んでいます。
Parrotが正式に発表したのは2025年6月16日、パリ航空ショーの場です。Parrotは、この機体が国家の主権と自由を守る差し迫った必要から生まれ、紛争地からの直接のフィードバックをもとに開発されたと説明しています。正式発表時点ですでに量産・販売に入っており、2024年半ばから欧州・北米・NATO同盟国の複数の部隊に配備されています。製造は米国と韓国で、中国由来の部品は使っていないとしています。その後も欧州の国防軍との複数年契約(2025年11月)、フィンランド国防軍による約1,500万ユーロ(税込)の調達(2026年2月)、NSPA経由の初回発注(2026年3月)が続きました。
ANAFI UKRの主な仕様
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 重量 | 1,033g未満(標準バッテリー)/1,365g未満(XLRバッテリー) |
| 展開時間 | 2分未満 |
| 飛行時間・距離 | 38分・23km(標準)/70分・40km(XLR) |
| 昼間用カメラ | 広角・望遠の2センサー、デジタルズーム最大35倍、4K動画 |
| 熱画像カメラ | 「640」クラスの熱画像センサー(公式表記)、温度分解能60mK以下、波長8〜14µm |
| ジンバル | 3軸ハイブリッド(機械式+電子式)、−90°〜+90° |
| 位置の推定 | GPS・GLONASS・Galileo・BeiDouに加え、ステレオカメラによる光学航法(視覚慣性オドメトリ+衛星画像との照合)。GNSSの偽装を検知する機能も搭載 |
| 通信 | 周波数ホッピング方式の無線「MARS」、暗号化された予備のLoRa無線、Wi-Fi、5G(搭載は仕様により異なる)。映像は1080p、AES-256で暗号化 |
| 機体上の処理 | Qualcomm QRB5165、内蔵メモリ512GB+microSD |
| AI・ソフト | 物体の認識・追跡、Cursor on Target(位置情報の共有形式)に対応。Parrot SDK 8で機体上のプログラムを実行、MAVLink準拠の飛行計画 |
| セキュリティ | SDカードのAES-XTS暗号化(512ビット鍵)、FIPS140-2準拠・CC EAL5+認証のセキュアエレメント、セキュアブート、署名付きファームウェア |
| 耐環境 | IP53、−36〜+50℃、耐風15m/s、最大運用高度5,000m(海抜) |
| 規格・適合 | NDAA・TAA準拠、Blue UAS承認(Parrotの説明による) |
※Parrotの公式技術仕様、データシート(2026年6月版)、ホワイトペーパー(2026年6月版)による海外仕様です。2025年の発表時から重量や飛行時間などが更新されています。日本国内で使える構成は下の【注意】をご覧ください。
- 地表の模様が乏しい場所や雲などで光学航法が使えない場合は、航法の性能が落ち、姿勢のみを保つモード(ATTIモード)に切り替わります
- 電波妨害への強さについても、Parrotは周波数ホッピングによる「耐妨害」と説明しています。あらゆる妨害を受けないという意味ではありません
- 日本の技適は、ANAFI UKR(2025年10月)、ANAFI UKR GOV(2026年7月)とも2.4GHz帯の無線が対象です。海外仕様の通信方式・通信距離が、そのまま国内で使えるわけではありません
出典・参考資料
ANAFI UKRは「2つの系譜」の合流点
ここまでの流れを1枚にまとめました。
図:Parrotの技術の系譜。スマートフォンでは図を横にスクロールできます。
出典・参考資料
Parrot、EPFL、U.S. Army、DIU、リトアニア国防省の公開資料をもとにSkyLink Japan作成。各資料へのリンクは、このブログの該当セクションの出典に掲載しています。技術領域の対応づけはSkyLink Japanの見立てです。
ANAFI UKRの仕様を過去の製品と並べると、多くの要素に「前例」があることが分かります。
| 製品・企業(年) | Parrotに蓄積された主な技術・知見 | ANAFI UKRで対応する要素 |
|---|---|---|
| AR.Drone(2010年) | スマートフォン・Wi-Fiでの操縦、IMU、下向きカメラによる自動ホバリング、公開SDK | カメラ映像による光学航法、機体上で動かせるSDK |
| senseFly(2012〜2021年) | 業務用マッピング機、測量・農業市場での運用の知見 | 業務・政府用途を前提にした製品づくり |
| Pix4D(2012年〜) | 写真測量、点群・3Dモデル、画像からの位置と形の復元 | 衛星画像との照合による位置の推定、地図作成機能 |
| Bebop(2014年) | 小型機への高い計算能力、デジタル映像安定化、複数の衛星測位 | 3軸ハイブリッドジンバル、4種類の衛星測位 |
| ANAFI(2018年) | 軽量・折りたたみ・静音、真上まで向くジンバル | −90°〜+90°のジンバル、携行しやすい機体 |
| ANAFI USA(2020年) | 32倍ズーム、FLIRサーマル、IP53・−36〜+50℃、SDカード暗号化、米仏の政府調達 | 35倍ズーム、640サーマル、同じ耐環境性能と暗号化方式、NDAA・Blue UAS(Parrotの説明による) |
| ANAFI Ai(2021年) | 4G主回線、ステレオカメラ、Air SDK、セキュアエレメント、PIX4Dcloud連携 | 複数の通信経路、ステレオカメラ、SDK 8、同等のセキュアエレメント |
| ANAFI UKR(2024〜2025年) | 上記を統合し、周波数ホッピング無線、予備のLoRa無線、光学航法、機上AIを加えた次世代マイクロUAV | |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。右列は、ANAFI UKRの公式仕様にある要素を過去製品の技術領域と対応づけたSkyLink Japanの整理です。Parrotが各技術の由来をこのように説明しているわけではありません。
政府・セキュリティの系譜と、通信・AI・データの系譜
表を縦に読むと、2つの流れが見えてきます。
一つは、SRRからANAFI USAへ続く「政府・セキュリティ」の系譜です。IP53と−36〜+50℃の耐環境性能、SDカードのAES-XTS(512ビット鍵)暗号化はANAFI USAとANAFI UKRで共通で、ズームとサーマルを組み合わせて遠くから状況をつかむ形も、ANAFI USAで整いました。
もう一つは、ANAFI Aiの「通信・AI・データ」の系譜です。携帯回線を含む複数の通信経路、ステレオカメラ、機体上で動くSDK、セキュアエレメントが受け継がれています。その根には、カメラ映像で自分の動きを測ったAR.Droneと、画像から位置と形を復元するPix4Dがあります。
ANAFI UKRは、この2つの系譜を、衛星測位や無線が妨げられる環境に向けて統合した機体だと私たちは考えています。紛争地の現場の声が直接のきっかけになったとしても、それを短い期間で量産できる製品にまとめられたのは、少なくとも2019年のSRRから続く政府向けの開発と、2010年から続く小型機・画像処理の技術の蓄積があったからだと考えられます。
日本でANAFI UKRを検討する意味
日本の現場に置き換えると、官公庁や消防・防災のドローンとして、次のような用途でANAFI UKRの特徴が生きると考えています。
| 分野 | 想定される活用 | 関係する特徴 |
|---|---|---|
| 消防・防災 | 夜間の要救助者の捜索、延焼範囲や土砂災害の状況把握 | 640サーマル、最大70分の飛行(XLRバッテリー)、IP53 |
| 警察・警備 | 大規模イベントや重要施設周辺の警戒監視 | 35倍ズーム、物体の認識・追跡 |
| 官公庁・自治体 | 災害時の情報収集、広い範囲の状況把握 | 長い飛行距離、地図作成機能 |
| インフラ・重要施設 | 発電所、港湾、送電設備などの巡視 | サーマル、データの暗号化、通信が不安定な環境での航法 |
| 防衛関連 | 小部隊の情報収集・警戒監視 | 光学航法、周波数ホッピング無線(国内の運用条件は別途確認) |
※スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
調達の面では、2020年9月に関係省庁が申し合わせた「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針」があります。防衛、犯罪捜査・警備、人命に直結する救難・救命などの重要業務に使う無人航空機について、機微情報の窃取・漏えい、乗っ取り、飛行の妨害といったリスクへの対応を求めるもので、2021年4月以降の調達から適用されています。特定の国名は挙げていません。
実際の相談でも、調達要件、サプライチェーン、情報セキュリティ、政府機関の調達方針などの理由から、中国製以外の機体(非中国製ドローン)を求められるケースが増えています。欧州製ドローンやセキュアドローンを比べる際は、性能に加えて「どこで設計・製造され、データがどう扱われるか」を確認しておくと、調達時の説明がしやすくなります。
- 国内で使える通信構成と通信距離(技適の範囲、携帯回線を使う場合は携帯電話事業者の上空利用プランの契約)
- 運用場所の条件(携帯電話のエリア、電波の混雑、水面・雪原など地表の模様が乏しい場所の有無)
- 航空法に基づく飛行の許可・承認、機体登録、操縦者の体制
- 撮影データの保存先と管理ルール(クラウドを使うか、機体や端末の中で完結させるか)
- 国内での保守・修理、予備バッテリー、訓練の体制
- 既存の機体(測量用・点検用など)との役割分担
ANAFI UKRは、偵察・監視を主な目的とした機体です。広い範囲の測量、LiDARによる計測、重い機材の搭載、長時間の定点監視などには、それぞれに適した機体や方式があります。目的によっては、いま使っている機体の運用を見直すだけで足りる場合もあります。
Parrotの技術史を知ると、ANAFI UKRの設計が見えてくる
AR.Droneから始まったParrotの小型ドローン開発は、senseFlyとPix4Dへの投資で「データにする」力を得て、ANAFIで小型・軽量・静音の機体を形にしました。米陸軍のSRRとANAFI USAで政府・防衛市場に入り、ANAFI Aiで通信・AI・データを機体に統合しています。その延長線上にあるのがANAFI UKRです。
衛星測位に頼りきらない航法、複数の通信経路、機体の上での処理、暗号化されたデータ管理。ANAFI UKRの設計は、Parrotが15年以上かけて積み上げてきた技術の組み合わせとして読むことができます。
SkyLink Japanでは、Parrot ANAFI UKRの日本国内での取り扱いを開始しています。海外の仕様書だけでは分かりにくい国内での通信構成や運用条件も含めて、ご相談いただけます。
- ISR(情報収集・警戒監視・偵察)
- Intelligence, Surveillance and Reconnaissanceの略。状況を把握するための情報を集める活動
- GNSS
- GPS、GLONASS、Galileo、BeiDouなど衛星測位システムの総称
- ジャミング/スプーフィング
- 電波を妨害して受信できなくすること/偽の信号で誤った情報を信じ込ませること
- 光学航法(視覚慣性オドメトリ)
- カメラ映像と慣性センサーを組み合わせ、自分の位置や動きを推定する方法
- NDAA/Blue UAS
- 米国の国防授権法/米国防総省が審査した小型ドローンのリスト
Parrot ANAFI UKRの導入を相談する
SkyLink Japanでは、Parrot ANAFI UKRの日本国内での導入相談を受け付けています。
ANAFI UKRの詳細仕様、導入構成、デモンストレーション、既存UASとの比較、官公庁・公共安全分野での活用などについて、ご相談ください。たとえば次のようなご相談に対応しています。
- 製品仕様や国内で使える通信構成を詳しく知りたい
- デモンストレーションを相談したい
- 官公庁・公共安全分野の案件について相談したい
- いま使っている機体と比較したい
- 日本国内での運用方法を確認したい
- 見積りがほしい
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