2026年9月、ラスベガスのCaesars Forumで開かれたCommercial UAV Expo 2026を3日間歩きました。このブログでは、会場で感じた米国市場の転換を中心にお伝えします。NDAA、FCC、関税、政府調達、原産国などの詳細は、後半の別冊PDFにまとめました。
3日間歩いて最初に感じたこと
出展は240社を超え、来場者は3,700人規模。DJI Enterpriseもブースを構えていましたが、会場の空気をつくっていたのは、BRINC、Inspired Flight、Teal、Hoverflyなど、米国製・非中国製を前面に出すメーカーでした。
政府・公共安全向けのブースでは、「NDAA compliant」「Blue UAS」「Made in USA」という言葉が、飛行時間やカメラ性能と同じくらい大きく表示されていました。誰が、どこで、どの部品を使ってつくったのか。調達できること自体が、製品性能の一部になっている。それが最初の印象でした。

非中国製が「選択肢」ではなく「前提」になった
公共安全、重要インフラ、防衛に近い用途ほど、非中国製であることは比較項目ではなく入口の条件になっています。会場で交わされていたのも、単純な機体比較より、政府調達に入れるか、通信とデータをどう管理するか、交換部品を継続して供給できるかという話でした。
ここで注意したいのは、「NDAA準拠」と「Blue UAS」と「米国製」は同じ意味ではないことです。さらにFCCの認証、連邦政府の調達、州独自の承認リストも別々に動きます。詳しい違いはPDFで整理していますが、現場ではこうした複数の条件を横断して説明できることが求められていました。
規制より先に効いている、部品供給の壁
FIELD NOTE|会場で聞いたこと
現地の関係者から繰り返し聞いたのは、「DJIの交換部品や重要部品が、ほぼ米国に入ってこない」という話でした。
既に認証された機体の使用が直ちに禁止されたわけではありません。しかし、修理に必要な部品を確保できなければ、現場では使い続けられません。制度上の禁止範囲とは別に、供給面からもDJIをはじめとする中国メーカーが米国市場から事実上押し出されつつある。その現実を会場で確認しました。

人物の顔はモザイク処理しています。
代替機はあります。ただ、公共安全機関の担当者との会話では、「もうDJIは買いにくい。問題は代替機の価格だ」という趣旨の話も繰り返し出ました。規制に適合する機体を用意するだけでなく、必要な台数をそろえ、保守を続けられる価格にできるか。米国市場の次の競争は、そこに移っています。
もう一つ意外だったのは、Skydioに対する評価が、必ずしも一様に前向きではなかったことです。産業用ドローンの販売代理店や関係者からは、「Skydioは軍・政府分野への注力が強く、一般の産業・業務用途市場への関心が薄いように見える」「価格が高い一方で、期待する水準のサポートを得にくい」といった不満も繰り返し聞きました。
これは会場で話を聞いた編集長としての所感であり、同社の公式方針やサービス品質を断定するものではありません。ただ、非中国製で規制要件を満たすだけでは十分ではなく、価格、販売体制、導入後のサポートまで含めて評価されるという現場の厳しさを示す声として印象に残りました。
EDITOR’S VIEW|日本市場への懸念
企業が、より大きな予算と需要のある分野へ向かうのは、事業として仕方のない面もあると思います。一方で、日本市場でも同じことが起こらないかという心配が残りました。
もし多くのメーカーが一斉に防衛・軍用開発へ向かい、測量、点検、防災、物流、農業などの産業・業務用途向け製品やサポートが手薄になれば、選択肢は増えず、導入コストも下がりません。その結果、産業・業務用途市場が十分に育たない可能性があります。防衛需要の成長を否定するのではなく、そこで磨かれた技術を民間用途にも還流させ、両方の市場を継続して支えられるか。今回感じた課題は、米国だけの話には思えませんでした。
9月3日、新関税がサプライチェーンを価格に変えた
会期最終日の2026年9月3日には、通商拡大法232条に基づく新たなドローン関税が発効しました。25kg超の機体、サーマルカメラ搭載機、ドッキングステーション、指定された重要部品などは、品目によって関税率が100%となります。
重要|DJIの完成機もすべて追加関税の対象
9月3日以降、中国で製造されたDJIの完成機はすべて232条追加関税の対象です。ただし税率は一律100%ではなく、25kg以下の非サーマル機は25%、サーマルカメラ搭載機、25kg超の機体、ドッキングステーションなどは100%です。
DJIの主力産業機を含むサーマル搭載機やドック型運用システムに100%、それ以外の小型完成機にも25%を課す。この広範な措置は、米国が中国産ドローンを価格競争の問題ではなく、安全保障と供給網の問題として厳しく扱っていることを象徴しています。
一方で、DJIの販売代理店からは、100%の追加関税がかかる対象機であっても、SkydioやParrotのANAFI UKRなどよりなお安価で、一定数の顧客需要は残るという見方も聞きました。規制と供給の壁が高くなっても、価格差が大きい限り需要がすぐに消えるわけではありません。米国市場では、政策が非中国製への移行を強く促す一方、現場の予算制約がDJI需要を残すという、二つの力が同時に働いています。
日本原産品には、一定の条件を満たせば通常関税込みで上限15%となる枠組みがあります。ただし、その条件を証明するには、機体だけでなく、モーター、通信、カメラ、バッテリー管理、フライトコントローラーなどの原産国を把握しておかなければなりません。
POINT|先に結論
米国は、完成した機体を日本から輸出すれば入れる市場ではなくなりました。
FCC、関税、政府調達、原産国、部品表、データ管理、現地保守を、製品設計と事業体制の両面で組み直す必要があります。
商機は完成機だけではない
会場を歩くと、完成機と同じくらい、LiDAR、光学、GNSS、モーター、コネクター、バッテリー保護、通信、エッジコンピューティングの展示が目に入ります。米国側がサプライチェーンを組み替えるなら、日本企業の商機も完成機だけではありません。
日本メーカーに求められるのは、製品を完成させてから中国製部品を置き換えることではありません。開発段階から部品の原産国を管理し、米国側が確認したい情報をすぐに出せる状態をつくることです。部品メーカーにとっても、どの制度要件に応えられる部品なのかを説明できることが、採用の入口になります。
日本メーカーにとって、米国市場への挑戦とは
中国製以外を求める需要が増えることは、日本メーカーにとって確かな機会です。ただし、「日本製だから売れる」わけではありません。米国の制度上、日本製も外国製です。
米国で選ばれるには、価格、性能、量産能力、販売網、交換部品、修理、認証、政策対応を一つの事業として組み立てる必要があります。言い換えれば、米国市場への挑戦とは、機体の輸出ではなく、製品構成、サプライチェーン、販売、保守、継続支援までを現地の条件に合わせて再設計することです。

ラスベガスの会場で感じたのは、「代替機はある。しかし、必要な台数をそろえ、現場に定着させるには、価格と保守の課題が残る」という空気でした。これは米国だけの話ではありません。日本で非中国製への移行が広がるときも、同じ課題が同じ順番で起きます。
制度・関税・参入要件は別冊PDFにまとめました
詳しく確認したい方向けに、このブログから切り分けた実務資料「米国ドローン市場参入ガイド 2026」を用意しました。
- NDAA、ASDA、Section 889、Blue UASなどの違い
- FCCのCovered Listと新規認証の免除経路
- 2026年9月3日発効の232条関税と日本原産品の条件
- 原産国判定、中国製部品、BOM管理
- FAA、バッテリー、データセキュリティ
- 政府調達、ACSLの事例、米国進出モデル
- 米国製・非中国製機体を日本へ導入する際の技適・PSE・リモートID
- 参入チェックリスト、月次モニタリング、参考資料
調査基準日:2026年9月2日(日本側データの一部は9月4日更新)
まとめ
Commercial UAV Expo 2026で見えたのは、単なるDJI離れではありません。米国市場の参加条件そのものが、性能中心から、原産国、部品、認証、データ、保守を含む形へ書き換えられています。
その変化は、日本メーカーに新しい入口を開きます。同時に、日本でつくったものをそのまま送るだけでは届かない市場にもなりました。米国で何が売れるかを考える前に、どの制度と顧客に向け、どの部品でつくり、誰が売り、誰が直すのか。そこまでを一つの設計として考える必要があります。
米国製・非中国製機体の国内展開、日本側の要件についてご相談ください
SkyLink Japanでは、非中国製機体を含む機体構成、官公庁・インフラ案件の調達要件、海外製機体の技適・PSE・リモートID・国内保守体制について、個別にご相談を承っています。
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本ブログは一般的な情報提供であり、法的・税務的助言ではありません。制度は頻繁に変更されるため、実際の輸出・通関・認証・政府調達では専門家と一次情報をご確認ください。
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