フランスのデモとドローン。撮影とAIによる人数計測の違い

フランスのデモとドローン|群衆解析の技術と日仏の撮影・AI利用ルール

情報確認日:(JST)

大勢の人で埋まった通りを、上空から見渡すドローン。その映像にAIを組み合わせれば、どこに人が集中し、どちらへ流れているかを捉え、警備や誘導の判断に役立てることができます。フランスのデモでは、上空から得た情報を地上の警備に生かすために、ドローンが使われていました。

今回のフランスのデモでも、AIによる群衆解析が行われていたと編集部では推察しています。

フランスでは、警察がドローンで撮影するための制度と、映像をAIで解析するための制度が分かれています。日本でも、飛行の手続きとは別に、撮った映像の利用目的や保管方法を決める必要があります。ドローンとAIを国内のイベント警備で使う際には、この違いが関わってきます。

フランスのデモ警備で使われたドローン

10月17日の全国デモについて、フランス内務省は全国で55万人が参加したと発信しています。これだけの規模になると、地上の担当者だけで全体の動きをつかむのは難しくなります。ドローンなら、群衆がどこまで広がり、周辺で何が起きているかを上空から見渡せます。

出典・参考資料

ストラスブール行政裁判所は10月5日、デモ監視にドローンを使う県の措置について判断を示しました。バ=ラン県知事は、ストラスブールなど3市で、5日・6日のデモ監視にカメラ付きドローンを使う県令を出していました。裁判所は、空間と時間を限定したドローン監視は正当化されると判断しています。一方、高校周辺の集会禁止は、範囲が不明確であることなどを理由に停止しました。

異変を見つけ、地上の部隊を動かす

ドローンの役割は、人数を数えることだけではありません。ストラスブール行政裁判所の10月5日の決定本文には、器物損壊や群衆の動きを素早く察知し、地上の警備部隊が向かう場所を正確に指示するという目的が記されています。県側は審理の中で、同日午前にドローンを使用したと説明しています。

建物や人垣で地上から見えない場所も、上空からは確認しやすくなります。人が集まっている場所や、急に流れが変わった場所を地上の担当者へ伝えれば、部隊を向かわせる判断に役立ちます。裁判所も、広い範囲の全体像を把握し、人と財産の安全を守るための必要性を認めています。

警備用途と使用実績の出典・参考資料

10月17日のデモでも、同じような警備目的が示されています。地元報道のVar Actuによると、ヴァール県はブリニョールで9時から13時、トゥーロンで13時から18時に、警察・憲兵隊のドローンによる撮影・録画・映像伝送を許可しました。県は、人への危害を防ぎ、地上の部隊を支援するためと説明したと報じられています。報道が伝えているのは、当日の飛行実績ではなく、使用を認めた時間と目的です。

10月17日の警備用途の出典・参考資料

警備の現場では、群衆が急に動いた場所や、対応を急ぐ場所を知る必要があります。AIで映像の変化を検出できれば、担当者が気づくまでの時間を短くする助けになるでしょう。ただし、撮影の許可だけで、その映像をどこまで解析してよいかが決まるわけではありません。

出典・参考資料

フランスの警察・憲兵隊は、すでに多くのドローンを保有しています。仏上院の2026年6月の報告書によると、国家憲兵隊のドローンは1,350機(2026年5月時点)、国家警察は830機。国家警察の2025年の出動は4,909件で、前年から87.5%増えました。ただし、これは保有機数と年間の活動実績です。10月のデモに投入された機数や機種を示すものではありません。同じ報告書は、警察・憲兵隊の機体の大半が外国製、とくに中国製であることを主権上の課題として挙げています。

出典・参考資料

「その場にいる人数」と「参加した人数」は違う

混雑した一角に何人いるかを知ることと、一日を通して何人がデモに参加したかを数えることでは、求められる処理が違います。警備に必要なのは、その時点の密度や人の流れ。一方、参加者総数を出すには、途中で加わる人や帰る人、同じ人の重複まで考える必要があります。

内務省が過去の国会答弁で説明した方法は、情報担当の警察官が行進ルートの高所2か所に立ち、1列の人数を見積もったうえで、列が通過するたびに手持ちのカウンターを押すというものです。道幅が分かっている区間で、密度と通過時間から人数を出します。全国55万人という今回の発表については、詳しい算定方法が分からないため、過去の計数方法やドローン・AIによる集計と同じ方法だったとは言えません。

出典・参考資料

報道機関は、警察とは別に人数を数えてきました。AFPなどの報道機関グループは2018年から調査会社Occurrenceに計数を委託してきました。AFPが2018年に公表した方法では、高所に設置した2つのセンサーで路上に仮想の線を引き、そこを通過する人を数えます。これは固定した撮影地点からの通過計数であり、ドローン上空からの計数とは異なります。撮影する位置が固定されているか、移動するかによっても、集計の仕方は変わります。

出典・参考資料
群衆を数える3つの方法:人による計数・通過人数の計測・密度推定
図1:人による計数、通過人数の計測、上空映像からの密度推定。目的に合わせて方式を選びます。図をタップすると別タブで拡大できます。

AIは密集した人をどう数えるのか

上空映像から人を検出し、人数や密度を推定する研究も進んでいます。2021年のコンピュータビジョンの国際会議CVPRで発表されたDroneCrowdは、ドローンで撮影した112本・33,600フレームの動画に延べ約480万点の頭部位置の注釈を付けたデータセットで、上空映像から人を検出・追跡・計数する研究の土台になっています。この480万という数字は、動画の各フレームに付けた注釈の数であり、異なる480万人を撮影したという意味ではありません。

出典・参考資料

主な数え方には、1人ずつ頭を検出する方法と、画像から密度マップを推定する方法があります。密度マップは、画像の各部分にどれほど人がいるかを表したもので、全体を足し合わせて人数を求めます。人が密集し、一人ずつ見分けにくい映像にも使われます。

行進中のデモでは、同じ人を重複して数えない処理が必要です。行進は動き続けるので、ある瞬間の画像に写った人数は参加者数ではありません。ドローン自体も動くので、同じ人を二度数えない工夫が要ります。「線を越えた人数」を数える方式が向いていますが、フレーム間で同じ人を追い続ける処理は、使い方によっては個人の追跡に近づきます。旗や横断幕、街路樹、催涙ガスの煙が頭部を隠し、真上から撮るか斜めから撮るかで見え方も変わります。高度を上げれば広く写せる代わりに、1人あたりの画素数が減って検出が不安定になります。

撮影できれば、すぐ高精度に解析できるわけでもありません。フランスの個人情報保護当局CNILは2026年3月の意見書で、2024年パリ五輪では、技術の成熟度が不十分なため、ドローンが集めた映像へのアルゴリズム処理を見送ったと説明しています。この判断は2024年当時のものです。現在の導入でも、固定カメラでの実績に加え、機体の移動や高度の変化がある映像で精度を確かめる必要があります。

出典・参考資料

撮影の許可と、AI解析の許可は別物

撮影とAI解析に適用される制度は、フランスと日本で異なります。フランスの警察・憲兵隊によるドローン撮影は国内治安法典、公共安全向けの一定のAI映像解析は五輪法に由来する実験制度で、それぞれ条件が定められています。日本の企業やイベント主催者は、航空法上の飛行手続と、個人情報保護法に基づく映像の取得・利用・管理をそれぞれ確認します。

フランスの警察に適用される撮影・AI解析の制度

撮影とAI解析で確認する条件を分けた模式図
図2:撮影の手続きと、映像を解析・利用するための条件。日仏の違いは下の比較表で整理しています。図をタップすると別タブで拡大できます。

ドローン撮影の根拠である国内治安法典(CSI)L242-4条は、音声の収録、顔認識処理、他のデータベースとの自動照合を禁じています。撮影許可の対象や条件については、L242-5条と個別の県令も併せて確認する必要があります。

出典・参考資料

AI映像解析には、2023年の五輪法第10条に由来する実験制度があります。2026年8月18日のRipost法によって実験期間は2030年12月31日まで延長され、対象となる場所も拡張されました。ただし、制度の延長が、あらゆるデモ映像のAI解析や人数計測を一律に認めたことにはなりません。目的、場所、処理内容、個別の許可条件を確認する必要があります。

出典・参考資料

ドローンの撮影許可は、映像のAI解析まで一括して認めるものではありません。

撮った映像を人が見るのか、AIで人数を集計するのか、個人の追跡に使うのか。処理が変われば、利用目的の説明や映像の管理方法も変わります。

日本の飛行承認とカメラ映像の利用ルール

日本の航空法では、祭礼やコンサートなど、多数の人が集まる催し場所の上空での飛行は原則禁止です。国土交通省の説明ではデモも催し場所の例に含まれます。カテゴリーIIで催し場所の上空を飛ばす場合は、立入管理措置を講じ、場所と日時を特定した承認が必要です。技能証明や機体認証があっても、この承認は省略できません。第三者の上空を立入管理措置なしで飛ばす場合は、カテゴリーIIIの要件・許可等が別途問題になります。

日本の飛行ルールの出典・参考資料

撮影した映像から特定の個人を識別できる場合、その映像は個人情報に当たります。民間事業者は、利用目的の特定、通知・公表の要否、目的外利用の制限、個人データに該当する場合の安全管理や委託先の監督などを確認します。飛行の承認が、映像のAI解析や二次利用まで承認するわけではありません。

例えば、会場の人数や密度を集計し、特定の個人との対応関係が排除された統計情報だけを利用する場合、その統計情報自体は個人情報に該当しません。ただし、出力が人数や混雑度だけでも、個人を識別できる元映像の取得・保存・解析まで規律の対象外になるわけではありません。顔識別による人物の照合も、人数や密度の集計とは分けて検討する必要があります。

日本の映像・統計情報の扱いの出典・参考資料

日仏で違う、撮影とAI解析の確認事項

2026年10月20日時点。フランス欄は警察・憲兵隊の公共安全運用、日本欄は企業・イベント主催者の活用を中心に整理しています。スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。

確認することフランス日本
ドローンで撮る警察等の撮影・録画・伝送は、国内治安法典と県令による条件を確認。航空上の要件とは別の撮影の規律。航空法上の飛行空域・方法と必要な許可・承認を確認。催し場所上空や第三者上空では、飛行カテゴリーと地上の安全確保が重要。
映像をAIで解析する五輪法由来の実験制度など、目的・対象・処理内容に応じた根拠を確認。撮影許可だけでは解析の可否を判断できない。映像や解析データの個人情報・個人データ該当性、利用目的、保存・委託・提供の方法を確認。飛行承認とは別に整理。
顔識別を使う国内治安法典L242-4条に基づく航空機搭載カメラでは、自動顔認識処理等を禁止。同じ禁止規定をそのまま当てはめる制度ではない。顔特徴データの扱いや、顔識別機能を含めた利用目的の通知・公表等を個別に確認。
制度比較表の出典・参考資料

フランス:国内治安法典L242-4・L242-5条、五輪法第10条を改正するRipost法第50条。日本:国土交通省の飛行許可・承認手続、個人情報保護委員会のガイドライン・Q&A。各資料はこの節と末尾の出典一覧に掲載しています。表は編集部による整理です。

日本のイベント警備で必要な飛行計画と映像管理

花火大会や初詣などの警備で使うなら、飛行計画とあわせて、映像を誰が見て、何に使い、いつ消すかを決めます。主催者、飛行事業者、解析事業者の担当を明確にしておけば、許可申請やデータ管理の準備を進めやすくなります。

映像を人が見て状況を確認する場合と、AIで人数や密度を集計する場合では、使うシステムや保存するデータが異なります。顔識別機能を使う場合には、個人情報保護委員会が2023年3月に公表した「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」も参考になります。

出典・参考資料

混雑の把握が目的なら、人の密度や流量を計測する方法があります。例えば、通路が混み始めたら誘導員を増やす運用では、その通路の混雑度と変化が判断材料になります。個人を識別する機能まで必要かは、用途に応じて判断します。顔識別を使わない場合も、個人を識別できる元映像の取得・保存・閲覧は適切に管理する必要があります。

機体を選ぶ際には、製造国のほか、映像の暗号化やデータの保管先も確認します。仏上院も中国製機体への依存を課題に挙げていますが、必要な条件は発注者や用途によって異なり、製造国だけで安全性が決まるわけではありません。長時間、同じ場所を監視するなら、有線給電の係留型も選択肢です。設置場所や係留索の管理、風の条件、飛行手続きを含めて機体を選びます。

混雑を検知した後、誰が確認し、どの誘導員に連絡するのか。打ち合わせでは、機材の仕様とあわせて、この連絡手順まで決めておきたいところです。実際の会場で試し、警備担当者が判断に使える精度や通知のタイミングを確かめます。

SkyLink Japanのソリューション

ドローン・AIによる混雑把握のご相談

SkyLink Japanでは、ドローン映像とAIを活用した混雑把握など、公共安全・イベント運営を支えるソリューションの準備を進めています。

「会場の混雑を把握したい」「人の流れに合わせて誘導したい」「既存のカメラとドローンを併用したい」といったご相談を受け付けています。会場や運用の条件を伺い、機体、映像伝送、AI解析、データ管理の構成と実証方法をご提案します。

導入する機材や具体的な仕様が決まっていない段階でも構いません。実施場所・把握したいこと・導入や実証の希望時期など、分かる範囲でお知らせください。

混雑把握・ドローン映像AIの活用を相談する

相談フォームにテーマを引き継ぎます。ご相談の種類は「案件の相談」が選択されます。

フランスに一日も早く落ち着きが戻り、人々が平和で穏やかな日常を取り戻せることを、心から願っています。

※このブログは2026年10月20日時点の公開情報に基づいています。制度や運用は変わる可能性があります。個別の導入では、飛行と画像処理の双方について最新の要件を確認してください。

出典・参考資料

出典・参考資料の一覧を開く

確認日:2026年10月20日。本文で参照した資料を掲載しています。国会答弁は過去の計数方法、CNIL意見書は法案に対する見解であり、今回の現場運用を直接証明する資料ではありません。

  1. フランス内務省公式発信(10月17日のデモに関する投稿)
  2. ストラスブール行政裁判所、2026年10月5日発表
  3. 仏上院 財政委員会 報告書第812号「Les moyens aériens de la gendarmerie et de la police nationales」、2026年6月30日
  4. 仏国民議会 書面質問への内務省回答(デモ参加者の計数方法)
  5. AFP「独立したデモ参加者計数手法の採用」、2018年3月20日
  6. Wen et al.「Detection, Tracking, and Counting Meets Drones in Crowds: A Benchmark」CVPR 2021
  7. CNIL 意見書第2026-023号、2026年3月12日(法案に対する意見。成立法そのものではありません)
  8. Légifrance 国内治安法典 L242-4条
  9. 2026年8月18日法律第2026-798号(Ripost法)、第50条
  10. 憲法院決定第2026-915 DC号、2026年8月14日(実験期間と対象拡張に関する審査)
  11. 個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」資料一覧
  12. 国土交通省「無人航空機の飛行許可・承認手続」(催し場所上空・カテゴリーII/III)
  13. 国土交通省「航空法における無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルールについて」(催し場所の例にデモを含む)
  14. 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」
  15. 個人情報保護委員会 Q1-41(個人を識別できる映像情報)
  16. 個人情報保護委員会 Q15-2(統計情報と匿名加工情報の違い)
  17. 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドラインに関するQ&A」(顔識別機能の利用目的の通知・公表等)
  18. 個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(行政機関等編)」
  19. ストラスブール行政裁判所、2026年10月5日決定・事件番号2608884(LibreJustice掲載の決定本文)
  20. Var Actu、2026年10月17日(トゥーロン・ブリニョールでのドローン使用許可と警備目的)

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