「この散布作業を、あと何年続けられるだろう。」
ぶどう栽培では、病害虫を防ぐために、年間を通して何度も防除を行います。夏でも防護服やマスクを着け、スピードスプレーヤーなどの散布機を運転して何列も往復する。園地の条件によっては、重いホースを引いて歩くこともあります。気温が高い日は防護服の中が蒸し風呂のようになり、作業が終わる頃には汗でびっしょりです。
こうした果樹農家の悩みを変えるかもしれないのが、地上を走りながら散布する「無人型ローバー散布」です。
「このままで良いのだろうか」から始まる
果樹の防除でまず気になるのは、体への負担です。暑い中で防護服を着て歩き続けるだけでも体力を使います。薬剤を扱うため、散布中は周囲の状況や風向きにも気を配らなければなりません。
年齢を重ねるにつれて、「今のやり方をいつまで続けられるだろう」と考えることも増えてきます。後継者へ農業の魅力を伝えたくても、夏場に防護服を着て何時間も散布する姿を見せると、簡単には勧めにくい。そんな悩みを抱える園地は少なくありません。
機械に乗っていても、夏の散布はかなり大変
果樹園では、スピードスプレーヤー(SS)などの乗用式散布機が使われています。機械が走りながら薬液を送ってくれるため、広い園地を防除するうえで欠かせない存在です。
ただし、機械に乗れば負担がなくなるわけではありません。作業者は夏でも防護服やマスクを着け、散布機を運転しながら列を何度も往復します。薬液を散布している機械の近くに長時間いるため、暑さに耐えながら、運転と安全確認を続ける必要があります。
「散布中に農薬を浴びることがあるので、人が乗らずに作業できるようにしたい」というご相談があります。暑さだけでなく、薬液の近くで運転を続ける時間を減らしたいことも、無人型ローバー散布を検討する大きな理由です。
園路のぬかるみや段差が大きく、散布機が奥まで入れない場合は、ホースを延ばして人の手で散布することもあります。従来の機械は大切な役割を担っていますが、園地の条件によっては、運転する人の負担が大きくなります。
作業者が防護服を着て散布機を運転します。暑い時期も薬液の近くで何列も往復し、運転と安全確認を続けます。
人が乗らない機体を離れた場所から操作・監視します。走行中の機体に乗り続けずに済むため、薬液の近くにいる時間と暑い中での運転を減らせます。
そこで目に入るようになった「無人型ローバー散布」
無人型ローバー散布は、人が乗らない小型の車両が園地を走りながら薬液を散布する仕組みです。離れた場所から操作したり、決めた道筋を走らせたりできるため、防護服を着て機体のすぐそばを何度も往復する時間を減らせる可能性があります。
体の負担を軽くするだけでなく、作業の進め方そのものを変えられるかもしれません。果樹農家がこの新しい散布方法に関心を寄せ始めている背景には、目新しさよりも、毎年繰り返す防除を無理なく続けたいという切実な思いがあります。
走る道筋の設定、機体の見守り、薬液の準備、周囲の安全確認は人が行います。園地によっては遠隔操作も必要です。すべてを機械任せにするというより、人が暑い中を歩き続ける時間を減らす仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
ローバー型散布が、果樹園で注目される理由
果樹園は、平らで開けた畑とは条件が違います。枝や葉が重なり、ぶどう棚や支柱もあります。園地によっては道が狭く、地面に傾斜やぬかるみもあります。
空から散布するドローンは、広い場所を短時間で回るのが得意です。一方、果樹園では樹の下や内側から薬液を送りたい場面があります。大きな防除機では入りにくく、人がホースを引くしかなかった園地もあります。
そこで出てきたのが、農業用の小型ローバーです。地面を走るため、低い位置から散布できます。機体を遠隔操作したり、決めた道筋を繰り返し走らせたりできる製品もあります。
国内では、ぶどう・なし・りんご・かんきつなどで納品や実演が公表され始めています。海外にも果樹園での散布例があります。まだ園地ごとの試行と確認が必要ですが、「使えるかを実際の園地で試す」動きが広がりつつあると見るのが適切です。
ローバー型散布は、何を楽にしてくれるのか
タンクを積んだ機体が地上を走ります。作業者が長いホースを引きながら列を歩く時間を減らせます。
少し離れた場所から操作し、機体の動きを見守れます。防護具と周囲の安全確認は引き続き必要です。
低い位置の送風機から、霧を横や上へ送ります。葉の茂り方や風によって届き方は変わるため、試し散布で確認します。
走る道筋を登録できる機種なら、毎回の細かな運転操作を減らせます。衛星の受信状況が悪い園地では遠隔操作を使います。
荷台へ付け替えられる機種なら、収穫かご、肥料、資材も運べます。防除の時期だけで終わらず、一年を通して使いやすくなります。
「何分短くなるか」だけでなく、暑い中を歩く時間や、重い物を持つ回数がどれだけ減るかを見ます。
ぶどう・なし・りんご・かんきつで、使いどころは変わる
同じ果樹でも、棚の高さ、列の幅、樹の茂り方は園地ごとに違います。機械のカタログだけで判断せず、いつもの作業に当てはめて考えることが大切です。
岡山県のぶどう農家様へ納品した例では、年10〜12回ほど行う防除の負担を減らすことが導入目的の一つでした。XAGは、国内のなし・ぶどう・かんきつ産地を回った実演や、りんご園での実演も公表しています。英国では果樹園・ぶどう園での散布例があります。
公表例:SkyLink Japan「岡山県のぶどう農家様への納品」/XAG「日本でのロードショー」「りんご園での実演」「英国の果樹園・ぶどう園での利用例」
具体例で見る、ローバー型散布機の大きさと働き
ローバー型散布機にも、機体の大きさや散布方法の違いがあります。SkyLink Japanが扱うXAG R150を一例にすると、100Lの散布タンクと2基の送風式散布装置を載せ、地上から霧を送ります。荷台へ付け替えた場合は、最大150kgを運べます。
画像で車体後部の上側に見える黒い円筒形の2基が送風式散布装置です。霧はこの部分から、左右の樹へ向けて送ります。
- 散布:100Lのタンクを載せて地上走行
- 走行:決めた道筋の自動走行、往復、追随、遠隔操作
- 運搬:荷台へ付け替えて最大150kg
- 足回り:狭い場所で曲がりやすい設計と四輪駆動
最大散布幅や作業効率などの数値は、平らな試験条件で測った値です。樹が並ぶ実際の果樹園では、走行速度、樹形、風、折り返し時間によって変わります。数字の大きさより、自分の園地を無理なく走れ、必要な場所へ散布できるかを優先します。
散布ドローンや従来の防除機と、どう使い分けるか
ローバー型散布が合いやすい
樹の下から散布したい。列間を走れる。重いホースや運搬の負担も減らしたい。
確認:道幅、傾斜、路面、折り返し場所。
散布ドローンが合いやすい
上空が開けていて、広い面積を短時間で回りたい。飛び地の移動が多い。
確認:周囲の状況、飛行条件、飛散への配慮。
今の防除機を続けやすい
列間と旋回場所に余裕があり、現在の機械で無理なく作業できている。
確認:困っている作業が本当に機械の変更で解決するか。
段差が大きい、傾斜が急、ぬかるみが深い、列間が狭すぎる、根や配管が地面に出ている園地では走れない場合があります。樹冠が濃く、衛星や通信が安定しない場所では自動走行が使いにくいこともあります。
地上車は飛行しないため、航空法上の飛行許可・承認の対象ではありません。散布する農薬はラベルに従い、保護具、立入管理、風向き、近隣への配慮は従来と同じように必要です。散布ドローンは、飛行条件に応じて機体登録や許可・承認の確認が必要です。
導入を考える前に、園地で確認したい5つのこと
写真と数字があると、相談が早くなります
- 一番狭い列間と、棚の高さ
- 端で折り返す場所の広さ
- 傾斜、段差、ぬかるみの様子
- 支柱、配管、根、石など地面の障害物
- 現在つらい作業は散布か、運搬か、その両方か
導入判断で最も確かなのは、実際の園地で走らせることです。カタログ上では入れそうでも、端で曲がれないことがあります。反対に、遠隔操作を組み合わせれば使える場合もあります。
これから増えるかどうかは、「園地に合うか」で決まる
ローバー型散布は、果樹園の防除をすべて置き換える機械ではありません。それでも、重いホースを引く、人が散布機の近くを歩き続ける、収穫物を何度も運ぶ。こうした負担を一台でまとめて減らせる点は、果樹園に合っています。
国内外で納品や実演が出始めたのは、目新しさだけが理由ではありません。毎年繰り返す、体にこたえる作業を少しでも続けやすくしたいという、現場の切実な理由があります。今後は、導入台数だけでなく、実際に何年使われ、どの作業がどれだけ楽になったかを見ていくことが大切です。
まずは、園地で走れるかを確認する
作物、列間、傾斜、現在の散布方法、いちばん楽にしたい作業をお知らせください。ローバー型散布と散布ドローンの両方を扱う立場から、園地に合う方法をご案内します。
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