赤い緊急照明の中で放水する係留式消防ドローンと「消防ドローンの選び方が変わる」のタイトル画像

消防ドローンの選び方が変わる:情報セキュリティ・補助制度・次世代機を読み解く【2026年】

情報基準日:2026年8月24日

夜の建物火災。地上では放水の白い筋が交差し、屋上は煙に隠れています。無線から聞こえるのは、各隊が見た断片的な情報です。そこでドローンが上がると、指揮本部の画面に建物の裏側、屋上で活動する隊員、熱画像に残る高温部が一枚の絵として現れます。

ドローンが消防にもたらした一番の変化は、空を飛べることではありません。見えなかった現場を、意思決定できる情報に変えたことです。

その消防ドローンが、いま「選び方の転換点」を迎えています。性能・価格・操作性に加えて、データの行き先や供給網を説明できるかが問われる時代です。一方で、有線で見守り続ける機体、放水する機体、夜間の活動面を照らす機体も登場しました。消防ドローンは「よく撮れる一台」から、任務ごとに強みを選ぶ装備へ変わりつつあります。

このブログでは、普及の歩みから調達制度、現場で起きている変化、次世代機までをたどります。キーワードは、「国名」ではなく「説明できること」、そして「メーカー」ではなく「任務」です。

1. 消防ドローンは「珍しい装備」ではなくなった

消防ドローンは、実証段階の珍しい装備から、現場で使う標準的な選択肢へ移りました。消防庁の2022年版手引きでは、活用本部が2017年度の70本部から2021年6月の383本部へ拡大。広がり方そのものが、装備の位置づけの変化を物語っています。

さらに2026年4月の衆議院総務委員会で、消防庁は2025年4月1日時点で全国720消防本部のうち564本部がドローンを導入していると答弁しています。導入率にすると78.3%です。46都道府県には141人のドローン技術指導アドバイザーが配置されていました。

時点活用・導入本部数割合
2017年度70本部9.6%
2019年度201本部27.7%
2021年6月383/724本部52.9%
2025年4月564/720本部78.3%

ただし、古い調査の「活用」には協定先、市長部局、消防団による運用も含まれます。2021年の383本部の内訳は、消防本部299、協定先61、市長部局・消防団23でした。機体の保有数だけでは消防力を測れません。

国も配備を後押ししてきました。消防庁は緊急消防援助隊向けに、映像伝送装置と組み合わせた情報収集用ドローンを無償使用制度で配備し、2021年度末までに全都道府県へ計52機を行き渡らせる計画を示しました。2023年版消防白書も、近年の緊急消防援助隊装備としてハイスペックドローンを挙げています。

2. 消防はドローンで何を見てきたのか

実災害での活用累計は、2021年6月までに4,051件。火災、原因調査、自然災害、救助・捜索へ用途が広がり、ドローンは「撮影する機体」から「判断を早めるセンサー」へ役割を変えてきました。

火災原因調査では、鎮火後の屋根や焼損範囲を上空から記録し、オルソ画像や3Dモデルとして後から検討できます。一方、進行中の災害では数分の差が活動方針を変えます。

火災の全体像と残火を確認する

建物火災や林野火災では、地上から見えない建物裏側や尾根の向こうまで俯瞰できます。可視カメラで延焼方向と部隊配置を見ながら、赤外線カメラで高温部、飛び火、残火を探します。広い林野火災では「どこが燃えているか」だけでなく、「どこへ人と車両を入れるべきか」を決める材料になります。

熊谷市消防本部は2023年、DJI Matrice 30Tを導入したと公表しました。生駒市消防本部の2024年度仕様書も、同じMatrice 30Tに予備バッテリー、サーチライト・放送装置などを組み合わせています。木更津市消防本部はMavic 2 Enterprise Zoomを林野火災で使い、延焼規模や飛び火の方向を把握した事例が報じられました。

Matrice系、Mavic Enterprise系は、可視・熱画像、ズーム、携行性、周辺機器、操作系を一つにまとめた点が24時間体制の組織に合っていました。担当者が替わっても複数人が同じ手順で扱えることは、カタログ値以上に重要です。

捜索で「先に見る」

山岳・水難救助では、隊員が急斜面へ入る前、舟艇を動かす前に、広い範囲を上空から確認できます。夕暮れや夜間は熱画像が手がかりになります。土砂災害では、二次崩落のおそれがある場所へ人を入れず、亀裂や地形変化を記録できます。

ドローンは要救助者を直接救い上げる装置ではない場合が多いものの、危険区域へ入る人数と時間を減らし、救助隊を入れる場所の優先順位をつけます。つまり、空撮機というより部隊運用と安全管理のセンサーです。

3. 転機は「中国製排除」ではなく説明責任の強化

まず押さえたいのは、中国製を国名だけで一律に対象外とする規定は確認できないという点です。問われているのは製造国のラベルではなく、データ、通信、更新権限、供給網を説明できるかです。

転機の出発点は、2020年9月14日に関係省庁が申し合わせた「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針」です。ドローンは空飛ぶカメラであると同時に、位置、時刻、映像、飛行ログを扱う情報通信機器です。飛行・撮影情報の漏えい、第三者による介入、操縦不能が起きれば、人命救助の継続にも影響します。そこで政府機関等の重要業務では、アクセス制御や暗号化などを含むリスク対応を調達段階から確認することになりました。

この政府方針は、自治体の消防本部へ直接適用されるものではありません。消防庁は2026年4月の国会で、その点を明言しています。一方で、消防庁が調達して配備する機体や、緊急防災・減災事業債、消防団設備整備費補助金などを活用する自治体調達では、政府方針を踏まえてセキュリティリスクを考慮することを条件としています。

2026年3月31日の消防庁通知が示した調達仕様書の記載例は、かなり具体的です。

  • 飛行情報と撮影情報の送信先・保存先を網羅的に示す
  • 通信経路と保存先で暗号化などを行い、無許可の取得を防ぐ
  • ソフトウェア更新の管理権限者を明確にする
  • メーカー等による強制着陸、進路変更、飛行禁止区域設定などの介入を防ぐ
  • 開発、製造、保守で悪意ある機能や不正変更が加わるリスクを下げる
  • 本社等が立地する場所の法的環境が、セキュリティへ影響しない理由を示す
  • 外国部品を含む供給安定性を評価し、対応策を示す

要点は、製造国のラベルではなく、誰が、どのデータへ、どの経路でアクセスできるのかを説明できることです。2026年4月28日の衆議院総務委員会で総務大臣も、政府方針は「特定の国、企業の製品を排除することを目的としたものではない」と答弁しました。

したがって、「中国製だから不可」も「暗号化機能があるから必ず可」も、どちらも単純化しすぎです。機体、主要部品、ソフトウェア、クラウド、保守体制を含む一式を、調達主体が個別に確認します。

4. 消防の財政措置は、補助金と事業債を分けて考える

「補助金」と一括りにしないことが、制度理解の第一歩です。消防本部の中心は緊急防災・減災事業債と防災対策事業債。消防団では、これらに消防団設備整備費補助金が加わります。

緊急防災・減災事業債は、購入費の何割かがそのまま振り込まれる補助金ではありません。2022年の消防庁資料では、地方債充当率100%、元利償還金の70%を地方交付税で措置する仕組みと説明されています。2026年3月の通知で、対象期間は2030年度まで延長されました。

整備する組織主な財政措置2026年度の確認ポイント
消防本部緊急防災・減災事業債、防災対策事業債機能・調達手続を記した整備計画を消防庁が確認
自治体防災部局同上整備に加えて運用計画も確認
消防団同上+消防団設備整備費補助金消防団向け要件と整備計画を確認

空中ドローンの機能面では、機体と搭載カメラが防水性能等級3以上を備え、動画を撮影して現場活動で有効に使えることが必須です。熱画像、暗所撮影、高倍率ズーム、リアルタイム伝送、自動航行、搬送・投下などは、任意の付加機能に位置づけられています。

対象は「空中」だけではない|水中ドローン

2026年通知は、災害対応ドローンに水中ドローンを含むと明記しています。消防本部が整備する場合、遠隔操作(有線を含む)と動画撮影・現場活用が必須要件で、音波探査、位置把握、物件の収集・搬送、リアルタイム伝送は任意機能です。空中機と同じく、緊急防災・減災事業債と防災対策事業債の対象になり得ます。

消防庁は2022年4月時点で73消防本部(10.0%)が水中ドローンを活用していたとしています。さいたま市は、潜水隊員が入りにくい場所でもソナー付き機で早期に状況を把握できると説明しています。全国一律の「潜水士不足」を示す公的統計は確認できませんが、潜水隊の配置や招集体制は本部ごとに異なります。水中ドローンは潜水救助の代替ではなく、入水前の捜索範囲絞り込み、隊員の危険低減、広域応援までの情報収集を担う装備と考えるのが適切です。

FF2が想定するのは、潜水士が入りにくい水中・閉鎖空間を、地上から調べる場面です。FINDiは、水道・下水道管の内部、ダム・ため池・貯水槽、発電所の取水路・冷却水管、港湾・岸壁・船底、工場・プラントの水槽や配管、海底構造物を活用現場として挙げています。一般的な内径600mm以上のマンホールから投入でき、クレーンや大きな開口を用意しにくい狭小環境にも対応する設計です。

水中や閉鎖空間ではGPSを使えません。FF2はDVLと慣性航法で自己位置を推定し、登録した図面上へ位置と航行軌跡を表示します。映像、位置、軌跡、注釈を同期して残せるため、「撮影したが、どの場所の映像か分からない」という問題を減らし、調査後の見直しやPDF報告書作成までつなげる考え方です。公式資料は最大水深300m、約3〜9時間の連続稼働、全周ソナー、強力な照明を掲げています。

消防・防災で考えると、濁水や暗所で潜水隊員を入れる前の状況確認、取水施設・貯水槽・浸水した閉鎖空間の被害把握、捜索範囲の絞り込み、同じ経路をたどる再確認などへつながる可能性があります。ただし、これは公表仕様とインフラ向け用途から考えられる運用例であり、FF2の消防本部への採用実績や、特定案件での財政措置対象を示すものではありません。整備計画と調達手続について消防庁の確認が必要です。

国産水中ドローン FINDi FF2 本体
国産水中ドローン FINDi FF2。画像をクリックすると製品ページが開きます。

2026年3月通知では、整備計画について消防庁の確認が取れたものを事業債等の対象とし、確認には1か月程度を要するとしています。つまり、年度末に機種を決めて申請書を出せばよいのではなく、仕様書と証憑を早い段階でそろえる必要があります。

三原市は2026年度予算資料で、防水性能等級3以上、熱画像・暗所・高倍率ズーム等を備える災害対応ドローン1基の整備を公表し、同年7月に入札結果を公開しました。予算資料には消防施設整備事業全体の地方債が記載されていますが、そのうちドローンへ充てた額までは確認できません。どの財政措置を使えるかは、機体名だけで判断せず、最新通知に沿って消防庁と都道府県の担当課へ確認する必要があります。

5. 更新現場で起きる本当の難しさ

更新の難しさは、「使えるか、使えないか」の二択ではありません。比較し、説明し、運用し続ける項目が増えたことです。

今治市消防本部の視察記録では、更新年数、予算、資格取得・更新費、財源の継続性が課題に挙げられています。当時は中国企業の機体を性能面から選び、緊急防災・減災事業債を活用していました。この例から見えるのは、過去の調達実績と2026年の新しい確認手続を、同じ基準で混同しないことの大切さです。

2026年度の入札を追うと、DJIは消えていない

「中国製ドローンは、もう消防では調達できない」。もしこれが全国一律のルールなら、今年度の仕様書や入札結果からDJIの名は消えるはずです。ところが、2026年8月24日までに確認できた公表資料は、そこまで単純ではありません。

消防機関年度・段階公表資料から確認できる内容
三原市消防本部2026年度
7月落札
仕様書はDJI Matrice 4TDを例示し、同等品を可としました。災害対応ドローン1機が税込1,557,299円で落札され、納期は12月25日です。
高松市消防局2026年度
8月入札
消防活動用無人航空機一式の改訂仕様書でDJI Matrice 4TDを示し、同等品確認依頼書と確認書も用意しています。8月20日に開札予定とされていましたが、情報基準日時点で落札結果は確認できませんでした。
岐阜市消防本部2025年度
12月落札
直前年度の例です。消防本部消防課向けに「DJI 無人航空機(ドローン)2セット」を税込2,557,500円で落札しています。
二戸地区消防本部2025年度
仕様公開
直前年度の仕様書は、DJI Matrice 350 RTKとZenmuse H30Tの組合せ、または同等品を示し、納期を2026年2月27日としていました。

この表は、公表資料から確認できた案件をピックアップしたもので、全国すべての調達を網羅した集計ではありません。また、三原市は落札済みですが納入前、高松市は入札段階です。直前年度の2例は、2026年度だけの偶然ではなく、DJIを明記する調達が年度をまたいで続いてきたことを確認するために載せています。

送電線の上空を飛行するDJI Matrice 4Dシリーズ
DJI Matrice 4D/4TDシリーズ。画像をクリックすると製品ページが開きます。

入札資料が示すのは、DJIが調達現場から消えたわけではないという事実です。三原市の落札結果や高松市の仕様書は、特定国製品の一律排除が目的ではないという国会答弁とも整合します。

ただし、入札資料を読むと、中国機を選ぶハードルが上がっている空気は感じます。現在は性能と価格だけでなく、データの送信・保存先、暗号化、更新権限、第三者の介入、主要構成要素、本社所在地の法的環境、供給網まで説明する必要があるからです。

禁止ではない。しかし、説明できない機体は選びにくい。 これが2026年の調達現場に近い姿です。国産・非中国製が相対的に有利になるとすれば、一律排除ではなく、情報セキュリティと供給網を説明しやすいためです。

更新時には、次の作業が同時に発生します。

  1. 現行機で行ってきた任務と不足を洗い出す
  2. 防水、熱画像、ズーム、照明、拡声、映像共有などの機能を決める
  3. データフロー、クラウド、更新権限、主要部品、供給網の説明資料を集める
  4. 情報政策部門、契約部門、財政部門と仕様をそろえる
  5. 新機体の教育、マニュアル、予備バッテリー、保守契約を予算化する

国産・非中国製へ切り替える場合も、機体価格だけでなく、周辺機器の流用、教育、代替機、保守・更新まで含む総費用で比べる必要があります。

一方で「国産は必ず高い」「非中国製は性能が足りない」と一般化できる公的な比較データも、今回の調査では確認できませんでした。現場の困りごとは確かにありますが、全国一律の全額自己負担化や調達停止が起きている、とまでは公表情報からいえません。

6. 新潮流① 長時間監視、放水、照明に特化する

ここから視点を変えます。次の機体探しは「既存機の代替品選び」だけではありません。消防には、一般的なバッテリー式カメラドローンでは解きにくい任務があります。

Fotokite|空中に置く指揮カメラ

スイスのFotokiteが開発するSigmaは、機体と地上局を細いケーブルでつないだテザードシステムです。ケーブルは給電と通信を担い、公式資料では24時間超の連続飛行、IP55、単一ボタンによる自動離着陸、低照度・熱画像のリアルタイム配信を掲げています。

Fotokite Sigma 係留式自律ドローン
Fotokite Sigmaの可搬型構成。画像をクリックするとSkyLinkの取扱製品一覧が開きます。

通常のドローンは、操縦者が飛行とバッテリー残量を管理し、一定時間で着陸させます。Fotokiteは、現場指揮車の近くから上げ、屋根、煙、部隊の動きを同じ視点で見続ける使い方に向きます。自由に飛び回れない代わりに、空中の定点カメラを切らさないことへ資源を集中した設計です。

Fotokite Sigmaは、米国の消防・公共安全分野で採用例があり、日本国内でも消防・防災用途での導入に向けた検討が進んでいます。

EXEDY|「見る」から「働きかける」へ

EXEDYが2026年に公表しているのは、開発中の定点監視有線ドローン「HOVER EYE」と消防用放水ドローンです。HOVER EYEは有線給電で最大30m上空から24時間監視、放水ドローンは最大約30mからの放水を想定します。いずれもJapan Drone 2026での参考出展で、完成した量産品としての紹介ではありません。

EXEDY 定点監視有線ドローン HOVER EYE
定点監視有線ドローン HOVER EYE(開発中)。画像をクリックすると開発情報が開きます。

放水機では、ホースを引く抵抗、放水の反力、水量変化、通信安定性を同時に制御する必要があります。EXEDYは、モリタHDが代表機関となる2025・2026年度の消防庁研究事業に協力し、CAFSを搭載する消防装備との放水試験を行っています。大阪市消防局も研究支援者として参加しています。

訓練塔へ放水するEXEDY消防用放水ドローン
モリタATIセンターでのドローン放水実験(出典:株式会社エクセディ)

ここで防水は付加機能ではありません。火災現場には放水があり、風が水滴を運びます。風水害は雨天時に起きます。消防庁が事業債対象機の機体とカメラへ防水性能等級3以上を求めるのは、悪天候でも飛べると便利だからではなく、悪条件のときに使えなければ消防装備として役目を果たせないからです。

EXEDYは消防用放水ドローンの公式製品ページを公開し、開発中の機体としてIPX3などの仕様を示しています。一方、HOVER EYEは開発情報の公開段階です。販売時期や導入実績などの詳細は、株式会社エクセディへお問い合わせください。

照明ドローン|カメラではなく現場を明るくする

暗所カメラや熱画像は、操縦者の画面には情報を届けます。しかし、地上でロープを扱う隊員、がれきを確認する隊員、舟艇から水面を捜す隊員に必要なのは、活動面そのものの明るさです。

夜間に点灯したCSP-D_Light530照明ドローン
CSP-D_Light530の照明運用。画像をクリックすると製品ページが開きます。

消防研究センターは2016年、夜間の土砂災害・雪崩現場を広範囲に照らす装置がなく、捜索救助に支障があるとして、「ドローンによる夜間照明」を研究開発課題に挙げました。アブダビ民間防衛隊は2020年、3分で展開し、高度40mから4,500~8,000平方メートルを照らす照明ドローンの試験を公表しています。

機体前方を照らす小型スポットライトと、上空から活動区域全体を照らす照明ドローンは別物です。後者は、照明車が近づけない斜面、水辺、倒壊現場へ「空中の照明塔」を置く発想です。有線給電なら長時間照明とも相性がよく、カメラドローンとは異なる予算項目として比較する価値があります。

7. 新潮流② セキュリティと使い勝手を両立する

「セキュリティを上げれば、現場は使いにくくなる」——その二者択一を避けようとする選択肢が、Autel EVO Maxシリーズです。

EVO Max 4T/4Nは、熱画像、ズームまたは夜間撮影、レーザー距離計、障害物回避などを一体化した業務機です。Autel公式ページは、映像伝送と保存へのAES暗号化、写真・動画・飛行ログの暗号化を説明しています。飛行ログや位置などのアップロードも、利用者が同意して初めて行う設計としています。

日本の販売ページで案内される「EVO MAX – Mode S」は、Special/Securityを表す名称とされ、通常機能に加えて、オンラインアクティベーションをしない運用、完全データ消去、オフライン地図、オフライン更新、GNSS・RIDの切替などを掲げています。常時インターネット接続を避けたい組織にとって、要件へ落とし込みやすい考え方です。

AUTEL EVO MAX Mode S
AUTEL EVO MAX Mode S。画像をクリックすると製品ページが開きます。

Mode Sを検討する際は、次の点を確認します。

  1. Autel Roboticsは公式会社情報で中国・深圳を本社としています。Mode Sでも中国メーカーである事実は変わりません。
  2. Mode Sは、日本国内向けの仕様として販売ページで案内されています。
  3. 消防・防災用途での導入に向け、各地の消防本部で検討が進められています。

RID停止、周波数変更、高度・飛行禁止区域制限の解除機能が存在しても、日本で自由に使えるという意味ではありません。法令と許可条件に従う必要があります。

Mode Sは、条件が合う案件では積極的に比較候補へ入れてよい機体です。消防庁通知は、特定国の製品を一律に外すのではなく、データの送信・保存先、暗号化、更新権限、第三者による介入、主要構成要素、本社所在地の法的環境、供給網を説明できるかを確認します。Mode Sが掲げるオンラインアクティベーション不要、外部ネットワークへ接続しない運用、オフライン地図・更新、撮影データと飛行ログの消去、通信・SDカード暗号化は、その比較項目と直接重なります。国産・非中国製が仕様条件でない案件で、販売者が構成、データフロー、運用手順、証憑を提示できるなら、情報セキュリティを重視する消防にとって有力な検討候補になり得ます。

一方で、機能が確認項目と重なることと、個別案件で消防庁の確認を得たことは同じではありません。自己財源で調達する場合も、財政措置を申請する場合も、法的環境やサプライチェーンを含む最終判断は調達主体ごとに行います。したがって、Mode Sは「中国製だから除外」でも「セキュリティ機能があるから自動的に適合」でもなく、証憑をそろえて比較・評価すべき候補と位置づけるのが適切です。

消防から聞くのは「DJI並みに使えて、説明しやすい機体」

SkyLinkへ寄せられる相談は、ほぼ二つに集約されます。慣れた操作性と即応性は落としたくない。一方で、データの行き先やネットワーク接続は、これまで以上に説明しやすくしたい。現場性と説明責任の両立が、更新時の本当の課題です。

求められているのは、単純な「DJIではない機体」ではありません。DJI相当の現場性を保ちながら、情報セキュリティの確認項目へ答えやすい選択肢です。

そのギャップを埋める候補として、SkyLinkが用意してきたのがEVO MAX Mode Sです。業務用カメラ、障害物回避、携行性を土台に、オンラインアクティベーションを行わない運用やオフライン地図・更新、データ消去、暗号化を組み合わせています。

もちろん、答えをMode Sだけに固定するわけではありません。既存機の継続、Mode S、国産・非中国製を同じ条件で並べ、任務、ネットワーク、データ、予算、教育・保守から要件を整理します。

8. 世界ではドローンが先着隊になり始めた

日本では、機体を現場へ持ち込み、その場で飛ばす運用が中心です。海外では一歩先へ進み、地上隊より先に映像を届けるDFRが消防にも広がり始めています。

消防・緊急サービスのドローン送信機に表示された車両の熱画像
フォート・ライリー消防・緊急サービス職員が、ドローンの熱画像センサーを使う習熟訓練。画面には車両の熱分布が表示されています。写真:Jennifer “JJ” James/U.S. Army(DVIDS、Public Domain)

米ノースカロライナ州Burlingtonでは、消防と警察が2024年7月、屋上配備型のDFRを開始しました。市は、ドローンが通常は地上隊より早く現場へ着き、熱画像を含むリアルタイム情報を指揮へ送ると説明しています。火災であれば、出動中の車内で煙の位置、屋根の状況、逃げ遅れの可能性を確認し、到着前に進入と部署を考えられます。

アリゾナ州Queen Creek Fire & Medicalは2026年3月、大隊長車に搭載する移動型DFRを公表しました。固定屋上型と違い、指揮車が到着した場所から遠隔操縦で展開し、構造火災、野火、大事故、捜索、危険物に使います。DFRは一つの機体名ではなく、通報・配備拠点・遠隔操縦・映像共有を一つの初動システムにする運用思想です。

ニューヨーク市消防局(FDNY)は2017年3月、ブロンクスの6階建て建物火災で初めて有線ドローンを投入しました。屋上隊員と屋根の損傷を映像で確認し、現場指揮官とオペレーションセンターへ共有しました。2025年には、国防総省のBlue UASリストに掲載された機体を含む代替候補を評価し、現在は市内5区でドローンを使っていると説明しています。導入後も、機体構成とセキュリティを更新し続けている点が重要です。

米国の森林火災では、回転翼だけでなく固定翼UASも使われています。USDA Forest Serviceの記録では、火災周囲を飛行して地図を更新し、地上隊へリアルタイム情報を届ける役割を担います。市街地の初動とは配備方法が違っても、「人を危険へ近づけずに状況を早く共有する」という狙いは共通です。

煙の立ち込める森林火災現場で待機する固定翼ドローン
森林火災の周囲を飛行し、地図とリアルタイム情報を提供する固定翼UAS。写真:USDA Forest Service/Region 5 Photography(Wikimedia Commons、Public Domain)

英国のTyne and Wear Fire and Rescue Serviceは、DJI Matrice 300とMavic 2 Enterprise Advancedを公表しています。可視・熱画像に加え、スポットライトとスピーカーを使います。欧州ではFotokiteのようなテザード機も消防・公共安全で使われ、自由飛行機と係留機を任務で使い分ける動きが見えます。

中国では「見る」から「消す」への開発が加速しています。深圳市は2026年5月、超高層建物の100m以上へ水を送る機体、200m以上へ泡を送る機体、建物側面から放水する機体、群制御で救助を支援する仕組みを実戦検証する公募を発表しました。蕪湖市は同年4月、TD550無人ヘリが306mでの高層消火試験を完了したと報告しています。いずれも実験・検証の色が強く、すぐに一般配備できる装備ではありませんが、高層火災で人を危険な高さへ近づけないという狙いは明確です。

世界の潮流と比べると、日本は機体導入数ではすでに立ち上がり期を越えました。次の論点は、常時即応できる配置、映像を指揮へ統合する通信、異なる機体の使い分け、そしてセキュリティを調達後も維持する仕組みです。

9. 次の機体は「任務」で選び、技能を測る

制度変更は、確認作業を増やします。けれど同時に、「前と同じブランドの後継機」から選定を見直す機会でもあります。

最初に機種一覧を開くのではなく、次の順番で考えると要件がぶれにくくなります。

検討項目最初に決める問い仕様へ落とす例
任務火災指揮、残火、水難、山岳、土砂、照明のどれか熱画像、ズーム、照明、拡声、放水、定点監視
到着時間誰がどこから運び、何分で上げるか携行型、車載型、屋上待機型、テザード型
継続時間何分または何時間、同じ視点が必要か予備電池、充電器、給電ケーブル、交代要員
環境雨、放水、煙、粉じん、風、低温で使うかIP等級、耐風、動作温度、レンズ防曇
情報何をどこへ送り、どこへ残すかオフライン、暗号化、保存先、削除、監査ログ
運用当直中に誰が飛ばし、誰が映像を見るか操縦者、安全員、指揮、航空運用調整、訓練頻度
維持故障・更新時にも即応できるか2機体制、代替機、保守年数、部品供給、更新手順
財源事業債、補助金、自己財源のどれか事前確認の期限、必要証憑、対象経費

一つの機体で全任務を満たそうとすると、重く、高価で、出動準備が長い機体になりがちです。迅速な初期偵察は小型機、長時間の指揮支援はテザード機、夜間活動は照明機、放水は専用開発機というように、複数の役割へ分ける選択肢もあります。

導入後の技能を「同じ物差し」で測るNIST STM

防火服姿でドローンを手にする消防士
消防士とドローン。写真提供:Kansas State Salina Communications & Marketing/NIST(NISTの明記により無償利用可)

機体だけでは即応力になりません。米国NISTのsUAS向け標準試験法(NIST STM)は、目標物を置いた再現可能なコースで、機体の能力と操縦者の技能を定量評価する方法です。組織が任務に応じて合格水準を決め、導入時の基準値、定期訓練、異動後の再評価を同じ物差しで比較できます。NIST自体は講習や認証を行わない点にも注意が必要です。

国内でも、JDRONEが受託した消防庁のドローン運用アドバイザー育成研修で、NIST STMに基づく基本操縦訓練が行われました。操学舘ドローンスクールも試験コースを公表しています。ただし、NIST STMの講習・評価費が機体整備と同じ事業債の対象になるとは確認できません。消防職員の一等無人航空機操縦者技能証明(夜間・目視外限定変更)には特別交付税措置があり、消防団には別の講習・モデル事業があります。機体整備と人材育成は、使える制度と対象経費を分けて確認することが重要です。

そして、調達仕様書に書いたセキュリティ要件は、納品時だけの検査項目ではありません。クラウドの保存先、利用規約、ファームウェア、主要部品、保守事業者は変わり得ます。年1回でも、データフローと管理者、アップデート状況、予備機の動作、バッテリー状態を見直す仕組みが必要です。

10. まとめ|転機は、任務から選び直す機会になる

全国564本部まで広がった今、論点は「導入するか」から、何をどう選び、どう使い続けるかへ移りました。

調達で問われるのは製造国だけではありません。データの行き先、第三者の介入、サプライチェーン、本社所在地の法的環境、供給安定性を説明し、組織としてリスクを判断できることが重要です。

そして選定の出発点は任務です。空中・水中の情報収集、長時間監視、放水、照明を分け、導入後はNIST STMのような共通指標で技能を維持する。機体、運用、訓練を一体で設計して初めて、装備は現場の力になります。

次の調達で問うべきは「どのメーカーに置き換えるか」ではありません。雨の夜、煙の向こう、崩れかけた斜面で、誰が何を見て、どの判断を早めたいのか。そこから逆算すれば、必要な機体、情報セキュリティ、運用、訓練の姿が見えてきます。

11. よくある質問(FAQ)

中国製ドローンは消防で調達できなくなったのですか?

いいえ。2026年8月時点で、消防庁資料に中国製を国名だけで一律排除する規定は確認できません。自治体消防には政府機関向け方針が直接適用されない一方、財政措置を使う場合などは、同方針を考慮したセキュリティ確認が求められます。特定機体が対象になるかは、調達仕様、証憑、整備計画ごとの判断です。

消防ドローンに使える「補助金」は何ですか?

消防本部では、緊急防災・減災事業債と防災対策事業債が中心です。消防団は、これらに加えて消防団設備整備費補助金を利用できる場合があります。補助金と事業債は仕組みが異なります。年度、整備主体、対象経費により扱いが変わるため、消防庁の最新通知と都道府県担当課を確認してください。

DJI製品は消防で今後も使えますか?

自治体調達で一律禁止されてはいません。ただし、財政措置の利用可否は別問題です。データの送信・保存、管理権限、主要構成要素、法的環境、供給安定性などを含めて個別に確認する必要があります。既存機の継続利用についても、組織の情報セキュリティ方針と運用条件を確認してください。

Autel EVO MAX Mode Sならセキュリティ要件を満たしますか?

検討対象になり得ます。Mode Sのオフライン運用、オンラインアクティベーション不要、データ消去、通信・SDカード暗号化などは、消防庁通知の情報セキュリティ確認と重なる項目です。国産・非中国製が仕様条件でなく、販売者がデータフローや運用手順、主要構成要素、供給網等の証憑を示せる案件では、有力な比較候補です。ただし、機能があるだけで消防庁の確認や財政措置対象が保証されるわけではなく、Autelの本社所在地の法的環境を含めて個別に判断されます。

消防用なら、防水性能だけ見れば雨天で飛ばせますか?

防水等級は重要ですが、それだけでは足りません。風、視程、雷、低温、レンズへの水滴、操縦者の視認、有人機との空域調整、離着陸場所も判断材料です。消防庁は事業債対象機の機体とカメラに防水性能等級3以上を求めていますが、実際の出動可否は機体の運用限界と現場条件に従って決めます。

水中ドローンも財政措置の対象ですか?

はい。消防本部が整備する水中ドローンは、遠隔操作と動画撮影・現場活用などの要件を満たし、整備計画の確認を受ければ、緊急防災・減災事業債または防災対策事業債の対象になり得ます。個別機種の対象可否は保証されません。

NIST STMの訓練費も機体と一緒に対象になりますか?

同じ扱いとは確認できません。機体整備の事業債、資格取得の特別交付税措置、消防団向け講習・モデル事業は別制度です。NIST STMの講習・評価費を含め、予算化前に対象経費を担当課へ確認してください。

出典・参考資料(49件)
  1. 消防庁「消防本部における災害対応ドローンの更なる活用推進について」
  2. 消防庁「消防防災分野におけるドローンの活用について」2026年3月31日
  3. 消防庁「緊急防災・減災事業債等における災害対応ドローンに係る事業の取扱い」
  4. 消防庁「地方自治法施行規則の一部改正に係る消防防災分野の対応」
  5. 内閣官房「小型無人機に関する関係府省庁連絡会議・決定等」
  6. 衆議院「第221回国会 総務委員会 第9号」
  7. 消防庁「令和5年版消防白書・緊急消防援助隊」
  8. 熊谷市「災害用ドローンを導入しました」
  9. 伊丹市議会「今治市消防本部ドローン隊DICS」視察報告
  10. 消防研究センター「ファーストレスポンダーに係る資機材の高度化等に関するニーズ調査」
  11. Fotokite Sigma 製品資料
  12. EXEDY「Japan Drone 2026」出展情報
  13. EXEDY「消防用ドローン研究開発に参画」
  14. Autel Robotics「EVO Max Series」
  15. Autel Robotics「Data Security White Paper」
  16. Autel Robotics 会社情報
  17. SkyLink Japan「Autel Robotics EVO Max – Mode S」
  18. Burlington Fire Department「Drone as First Responder」
  19. FDNY「2017年、火災現場へ初のドローン投入」
  20. FDNY「2025年、ファーストレスポンダー向け機体評価」
  21. Tyne and Wear Fire and Rescue Service「Drones」
  22. 深圳市「超高層建築消防ドローン応用」公募
  23. 生駒市「災害対応ドローンの運用を開始」
  24. Jレスキュー「消防ドローンのポテンシャル Case1:木更津市消防本部」
  25. 三原市「令和8年度新規・拡充等の事業概要」
  26. 三原市「令和8年度入札結果(物品調達など)」
  27. Seminole County, Florida「Fotokite Sigma購入審議資料」
  28. Abu Dhabi Civil Defence「Drone Test to Illuminate Accident Sites」
  29. Queen Creek Fire & Medical「Mobile Drone as First Responder」
  30. 蕪湖市「TD550無人ヘリによる306m高層消火試験」
  31. 生駒市消防本部「災害対応ドローン仕様書」
  32. 消防庁「令和8年度版 消防防災施設・設備整備に関する財政措置活用の手引き」
  33. 消防庁「消防本部における水中ドローンの整備推進について」
  34. NJS「インフラ点検調査用水中ドローン『FF2』販売開始のお知らせ」
  35. FINDi「産業用水中ドローン FF2」
  36. さいたま市「水中探査装置(水中ドローン)取扱い訓練」
  37. NIST「Frequently Asked Questions: Aerial Drone Tests」
  38. NIST「Performance Tests for Aerial Response Robots Become National Standard」
  39. JDRONE「令和4年度ドローン運用アドバイザー育成研修」
  40. 国際レスキューシステム研究機構「NIST sUAV-STM IRS認定一覧」
  41. 消防庁「令和8年度消防庁予算案等を踏まえた留意事項」
  42. 消防庁「消防団の更なる充実強化に向けた取組」
  43. DVIDS「Fort Riley Fire and Emergency Services Unmanned Aerial System:熱画像訓練」写真ページ
  44. Wikimedia Commons「DroneUASFirefighting-SixRivers-AA-05」
  45. NIST「Firefighter with drone」画像ページ・利用条件
  46. 三原市「災害対応ドローン」入札公告・仕様書アーカイブ(官公需情報ポータルサイトAPI掲載情報)
  47. 高松市消防局「消防活動用無人航空機に係る指名競争入札」
  48. 岐阜市「DJI 無人航空機(ドローン)2セット」価格調書
  49. 二戸地区広域行政事務組合消防本部「消防用ドローン購入仕様書」

情報基準日:2026年8月24日
本ブログは、公表情報をもとに消防用ドローンの動向を整理したもので、特定機体の調達可否、財政措置・補助金の交付、個別飛行の適法性や安全性を保証するものではありません。制度、通知、製品仕様は変更されることがあります。実際の調達・運用では、消防庁、都道府県の担当課、航空局、メーカー・販売者等の最新情報をご確認ください。

「DJIは続けにくい。でも、操作性と即応性は落とせない」と感じている消防・防災担当者へ
Mode S、既存DJI、国産・非中国製を並べ、任務、情報セキュリティ、調達資料、教育・保守まで要件を整理します。仕様書を固める前の段階でもご相談いただけます。

消防・防災ドローンの要件整理を相談する

BLOG REQUEST

次に読みたいブログを教えてください

「こんなドローン情報を知りたい」「この機種を比較してほしい」など、今後のブログへのご要望をお寄せください。


    いただいた内容は今後のブログ企画の参考にします。個別の回答やブログ化をお約束するものではありません。

    上部へスクロール
    Share via
    Copy link
    Powered by Social Snap