現在、日本では農業用ドローンの普及が急激に進んでいます。農薬散布から肥料散布、米や麦などの播種(種まき)、さらには田畑の状態の画像や映像を記録して生育状況や雑草、害虫の有無を把握するセンシング業務など、様々な用途でドローンを活用する動きが広がっています。
農林水産省が2019年に掲げた「農業用ドローンの普及に向けて(農業用ドローン普及計画)」をはじめ、国によるドローン普及の後押しや法整備も進んでおり、今後ますます農業におけるドローン活用の動きが活発になっていくと予想されます。
今回は現在の農業分野におけるドローン活用の現状と、新しく農業用ドローンを活用したビジネスを始める場合のモデル例をご紹介します。
■農業用ドローンとは
一般的にドローンといえば、カメラがついており撮影用途に利用されるものを真っ先にイメージする人が多いかもしれません。
しかし、農業用ドローンは、田畑に薬剤を散布するためのタンクとノズルが搭載されている農薬散布用のドローンのことを指すのが一般的で、撮影用途とは違う活用をされている特殊なドローンとして認知されています。
一般的に普及しているドローンは基本的にカメラやセンサーを搭載し、撮影・データ取得を目的としており、普通の空撮から測量や点検などの業務用途まで汎用的に使えるものも多いですが、農薬散布用ドローンはタンクやノズルを搭載し液剤等を空中から作物に噴霧することを目的としており、普通のドローンとは構造も異なるため、農業専用機となるのが一般的です。
■農業用ドローンの主な活用事例
農業用ドローンの活用は様々な場面に用いられますが、代表的な例をご紹介します。
○農薬散布
従来、農薬散布は産業用無人ヘリコプターを使用した散布や噴霧器を使った人力での作業で行われてきました。
大きな圃場(田畑)の場合、機体が大きく、積載できる農薬の量も多い産業用無人ヘリコプターを使用すれば、1回の散布で広い面積をまかなえますが、一機1,000万円以上の導入費用や取扱や操縦の難易度から、業者に委託して散布してもらうのが一般的で、小回りが効かないので小さな圃場の多い日本の環境では作業が難しいという面がありました。
一方、ドローンの場合は機体もコンパクトで小回りが効き、操縦も比較的簡単なので、狭い圃場や変形地でも対応が可能で、導入費用も数百万円〜と比較的費用を抑えて導入維持が可能なため、生産者自らが導入して好きなタイミングで散布を行ったり、散布請負ビジネスを新たに新規事業として開始するような事例が増加しつつあります。
デメリットとしては、コンパクトな分農薬の積載量が少ないのと、バッテリーでの駆動がほとんどなので、飛行時間や農薬の積載量の制限から1フライトでの作業効率が限られていることが挙げられます。
しかしながら、農林水産省が2019年に掲げた「農業用ドローンの普及に向けて(農業用ドローン普及計画)」ではドローンを使った全国の農薬散布面積を2022年度末までに100万ヘクタールに拡大すると目標を掲げており(2020年度の実績は推計約12万ヘクタール)、国による推進もあり今後も農業用ドローンを使った農薬散布はさらに増える見込みとなっています。
○肥料の散布、米や麦などの種まき(播種)
いずれも農薬散布と同じ要領で、農薬散布用ドローンに搭載したタンクに固体(粒剤など)を入れ、それらを散布する作業になります。
基本的には農薬(液剤)散布ドローンと機体は同じで、タンクを固体散布用のものに付け替えて使用するのが一般的です。
○リモートセンシング
リモートセンシングとは、圃場や農作物の温度や湿度、照度などの情報をドローンに搭載したセンサーで取得して数値化し生産管理に活用することです。
農作物の生育状況や土壌の状態などを、ドローンから撮影した画像によって分析が可能になり、病害虫や雑草の発生状況の確認にも用いられます。
人の目では認識できないような波長の情報も撮影できるマルチスペクトルカメラや特殊なカメラを使って農作物の生育状況を示すデータを取得し、高度な分析が可能になります。
センシングの場合は小型~中型の汎用ドローンに搭載した可視、マルチスペクトルカメラでデータを取得するのが一般的です。
■農業用ドローンを操縦するには?
現在、農業用ドローンを操縦するために必要になる法的な免許はありません。
しかし農薬を散布する作業は、ドローンの操縦自体が専門技能であることに加えて、劇物である農薬を空中から撒くという危険を伴う作業なので、ある程度の知識や安全性を自身で確保する必要があることから、各農業用ドローンメーカーが独自に認定するオペレーター認定を取得することがドローン導入の条件となっている場合が一般的です。
認定の教習施設で数日間の実技・座学講習を受講し、試験に合格するとオペレーター認定書が取得できます。
注意しなければいけないのが、現状は使用する機体ごとに技能認定証が発行されるということです。
一つの技能認定を受講すれば、全ての機体が操縦できるというわけではなく、一つの機体で取得した技能認定ではその一つの機体でしか農薬散布を行うことができません。
その他に現時点で農業用ドローンの運用に必須となる対応になるのは、国土交通省に対する以下の登録・許可承認が挙げられます。
- ドローン登録システムへの機体登録
(屋外を飛行させる100g以上のすべてのドローン・ラジコン機が対象) - ドローン情報基盤システムへの飛行計画登録
- 国土交通省へのドローン飛行許可・承認申請手続き
(取得が必要な許可の例:人口集中地区の上空、30m未満の飛行、危険物輸送、物件投下)
ドローンを取り巻く法律、免許制度については別記事にてご紹介しておりますので詳細はそちらでご確認ください。
ドローン免許制度(国家資格)の最新状況。取得は必須なのか?
ドローン登録制度義務化について
■農業用ドローンを購入する際の注意点
農業用ドローンのオペレーター認定を取得したのちに実際にドローンの購入を行ないます。
市場には価格、性能も様々なドローンが選択肢としてあり、それぞれに特徴があり一長一短です。
基本的にはオペレーター認定講習を受ける前段階でどの農業用ドローンを導入するのかを決めることになりますが、農業用ドローンを導入する際の注意点を簡単に説明します。
- 基本性能の確認:飛行性能、飛行時間、サイズ・重量、タンク容量など
- アフターサポートの充実度:メーカー、販売店によってアフターサポートの体制は様々です。導入後何年も運用することになる可能性の高い機材ですので、充実したアフターサポート体制を持ったところから購入することは安心を買うという意味で重要でしょう。
- トータルコスト:農業用ドローンの導入には機体代金に加えて、運用スタイルに合わせた周辺アクセサリー(予備バッテリーや無線機など)やスクール費用、保険費用、実際の作業現場でドローンを運搬する車輌費用など、認定取得〜機材導入〜実際の業務まで全体の流れを想定したトータルコストを意識して、思わぬコストがかかってしまわないようにしましょう。
農薬散布用のドローンもピンキリで、数十万円の機体から数百万円の機体まで様々な種類のものがありますが、実際業務で使える体制を整えるまでには認定取得費用や周辺機材費などを合わせるとトータルでまとまった資金が必要になることは確かです。
農業用ドローンの新規導入、新規事業としての立ち上げに活用できる、国や自治体からの補助金制度もいくつかありますので、こういった制度を活用すれば自己資金を抑えた形で導入・事業のスタートを行なうことのできる可能性もあります。
弊社では補助金サポートサービスも行なっておりますので、ご興味のある方は営業担当までお問い合わせください。
■農業用ドローンで仕事を獲得するには?
ビジネスとして農業用(農薬散布用)ドローンを導入し、技術も習得できればひとつの事業の軸としてドローン事業を展開していくことも十分可能です。
ただし、「知識・技術の習得」「業務が行える機材の導入」と「実際の仕事の獲得」は別の話です。
農薬散布の仕事の発注元とのネットワーク・人脈が元々あるなどのケースでなければ、新規で営業をかけて農薬散布の仕事を獲得することは至難の技と言えますし、軌道に乗せるまで時間がかかることが容易に想像できます。
SkyLink Japanでは、そのような状況をサポートするために、ドローン農薬散布のお仕事紹介散布チーム募集というサービスも提供しています。
ドローン農薬散布事業のスタートダッシュや収入源の増加に一役買うことができるかもしれないこのサービスにご興味のある方は是非お問い合わせください。